Haru:「三つ子の魂百まで」-1
時刻は14時半を過ぎていた。
自宅に戻って、必要な書類をまとめて一息つく。
両親は、夜遅くに帰ってくるので何も問題はなかった。
瑠奈は、私と勇樹の行為を見て、何を思い、何をするのだろうか。
想像すると、少しだけワクワクしてしまう。
そして、瑠奈と勇樹がどんなことをしているのかも、興味があった。
あ、そうだ。勇樹に連絡しておかなくちゃ。
「ゴムは買っておいたから、そのまま来てね。」
勇樹にそうメッセージを送信し、私はベッドに横になった。
重たい瞼を開けると、私のスマートフォンが着信していることに気付く。
時刻は15時40分。
通話のボタンを押し、スマートフォンを耳に当てると「着いたよ、陽。」
と勇樹の声がしたので、私は玄関へ降りて行き、家の扉の鍵を開ける。
「はいこれ、お菓子。」
勇樹はビニール袋に3人分の飲み物と私が好きなヨーグルト味の飴の箱を買ってきてくれた。
「中に入って。」
勇樹は平然としているが、瑠奈は視線が泳いでいて、相変わらず落ち着かない様子だった。
「(大丈夫瑠奈。これから起こることを目にすれば、世界が変わるかもね。)」私はそう心の中で瑠奈へとつぶやいた。
部屋に知り合いを呼ぶこと自体が久しぶりなのに、瑠奈と勇樹という二人が同じ空間にいることが違和感でしかなかった。
二人には、私のベッドにかけてもらい、私も飲み物を飲んでから勇樹の隣へと腰をかけた。
瑠奈は静かに勇樹の隣に座っていて、右から、瑠奈、勇樹、そして私が座っている。
「両手に花っていうのは、まさにこういうことね。」
私は勇樹にそう耳打ちした。
「いやーほんと、全くだよね〜。」
と笑いながら、勇樹は私と瑠奈の肩へと手を回す。
やっぱりこいつは、緊張していない。しなさすぎもいいところだが、瑠奈の緊張を解すには、このくらいではないとダメだな、と思った。
「ねぇ、勇樹。あなた最初から、私が手紙書いてたってやっぱり気付いてたの?」
「確信はなかった。でも、俺に誕生日プレゼントをくれるなんて、陽ぐらいなもんだし…。瑠奈ちゃんが持ってた手紙も、女の人が書いたものってのは分かったし、なんか俺のこともよく知ってる風な文面だったからいいかなって。」
勇樹はそう話している間もずっと私たちの肩に手を回したままで、時々瑠奈の表情を窺っていた。
「ふーん…。瑠奈は?私だと思いもしなかった?」
落ち着かない様子の瑠奈へも話を振って、瑠奈の緊張を解すように私も仕向ける。
「陽ちゃんに久しぶりに会えると思っていたから…嬉しかったのに、会えなくて、落ち込んでたから…。それどころじゃなかったかな。」
と恥ずかしそうに瑠奈が微笑む。
「…ぷっ!」
私は思わずその言葉に噴き出してしまう。私のことを考えるあまりに、勇樹のことなど見えていないじゃない。
瑠奈は、いい意味で騙されてくれたのね。
「そっかそっか。」
私は瑠奈の頭を撫でる。
それから…。
「勇樹…、私あなたに謝らなきゃね。」
「何を?」
「私と瑠奈の関係のことよ。浮気というか、それに近いじゃない。私がやってたこと。性別が同じとはいえ、あなた以外の人と関係を持ってしまったこと。ごめんなさい…。嫌だったよね。」
私が、他の男とそういう関係になってたら、きっと勇樹は凄い悲しんだり、怒ったりするのは分かる。
でも、男の人は、女が女と体の関係を秘密裏に持っていたら、どんな反応をするんだろう。
私だって、仮に勇樹が「俺、男と体の関係持っているんだ。」なんて言われたら、どんな反応をしていいのか、わからなくなる。
私的には、浮気された、とはきっと思わないだろう…。
「陽はさ、瑠奈ちゃんと俺、どっちが好き?」
勇樹が真剣な表情で、私と瑠奈を見てくる。
「勇樹の方が好きだよ。瑠奈も好きだけど、これは譲れない。」
私も勇樹も、二人して、瑠奈を二番目にしていて、瑠奈を傷つけてしまっている。
可哀想だけど、仕方がなかった。私たちの関係は、第三者に理解してもらうには、複雑すぎるのだ。
「それなら、良かった。でも、正直陽が瑠奈ちゃんのことを好きって言っても、自分の感情は、よくわかんなかったと思う。女の人が女を好きになる理由って、俺じゃ絶対分からないし。」
勇樹はそう言った。
「勇樹、瑠奈にも話したんだけど、私がいない間瑠奈をしっかり見ててあげてね。これはお願いだよ。」
私は瑠奈の顔を見て、
「勇樹が、瑠奈の鏡になってあげるの。」
そう言って私は瑠奈の手を握る。
「俺が鏡…?」
「そう、鏡。瑠奈が女であるという鏡になるのよ。あなたが、私の居ない間、私のことは忘れていいから、瑠奈をいっぱい愛してあげて。私は瑠奈を愛していたけど、きっと瑠奈の本当の心は、男の人じゃないと満たせないの。だから、あなたが瑠奈を女でよかったって、感じさせてあげるのよ。」
瑠奈は、数回ほど勇樹を横目で見たりしている。
「あの手紙に書いてある通りに…?」
勇樹は瑠奈をじっと見つめる。
「そうよ。」
私は、そう言ってから、瑠奈と勇樹の二人をベッドにゆっくりと倒していく。