サプライズ-1
三島康太(みしまこうた)の胸は、高鳴っていた。
初めて出来た彼女への、初めてのサプライズ。
そんなイベントを起こせる日が自分に来るなんて、思ってもみなかった。
「じゃーん!」
「え、うそ? 康太? 何で何で? 用事があるんじゃなかったの?」
「そんなわけないだろ。今日は美奈と付き合って半年の記念日だもんな」
「えー? 覚えててくれたんだ。やだ、すっごい嬉しい」
「……むふふ」
最愛の彼女、池田美奈(いけだみな)とこれから交わすだろうやり取りを想像して、康太は
一人にやにやと口元を緩めた。
小柄だがバランスの取れたプロポーション。
背中に伸びたさらさらの綺麗な茶髪に、細く整った眉とぱっちり大きな目。
通った鼻筋に、潤いたっぷりの唇。
はにかむような笑顔と、時折のぞくチャーミングな八重歯。
美奈の全てが、康太にとってはどんな天使や妖精よりも愛らしく、魅力的に思えた。
「へへへ……」
電車の吊り手にぶら下がって頬を赤らめる男子に座席の老婆が不審の目を向けたが、そんな
ことは関係なし。濃厚な愛情汁でじゅぶじゅぶになった脳は、ほんのり甘い幸せ色の白昼夢を
これでもかとばかり康太に見せ続けていた。
(それにしても……)
流れゆく車窓の風景を遠目に眺めながら、康太は美奈とのなれそめへと思いを馳せた。
美奈は元々サッカーが好きで、練習をよく見に来ていた。
試合の応援にも頻繁に姿を見せ、他校に遠征する時でも近場なら必ずグラウンドに現れた。
「いいよなー、美奈ちゃん」
「あんな彼女いたら、俺すっげーやる気出る」
「ほんと、シュートでもパスでもがんがん決められそーだぜ」
こういった会話が日常になるほど、美奈に想いを寄せている男は多かった。
だが有望株が互いに牽制し合った結果なのか、いつまで経っても美奈に彼氏が出来る気配は
なかった。
そこに動いたのが、康太だった。