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煉獄のファルチェ
【ファンタジー 官能小説】

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広場にて-1

 **

「……ん?」

 起きると、宿の部屋にリロイの姿はなかった。ファルチェは目を擦りながら、静かな部屋を見渡す。
 カーテンは閉めていても、眩しい日光が透けているから、もう陽が高く昇っているのだろう。


 ――昨夜、リロイは本当に満足するまで『ご褒美』をくれた。

 一度だけじゃなく、何度もファルチェの中に精を注ぎ込んで、数え切れないほど唇を合わせた。
 真夜中すぎまで絡み合ってから、リロイは魔法で身体と寝具を綺麗にすると、ファルチェを抱きしめて眠った。

 宿にとまる時はいつも、リロイと同じ寝台だけど、こうして抱きつかれるのが嫌で、ファルチェは寝台の端っこか床に避難していたものだ。
 でも昨夜は散々イかされたせいか、腰にまったく力が入らなかったし……苦労に見合うたっぷりの『ご褒美』を貰ったせいか、くっつかれるのもそんなに悪くない気分だった。
 だから、そのまま眠って、リロイが朝起きる前に離れようと思ったのに……。

 部屋にあるのはファルチェの荷物だけで、リロイのマントや荷物は何も無い。
 どこかに出かけたのだろうと思いつつ、ファルチェは自分の服に着替えた。
 森に住んでいた頃は、廃虚で見つけた布や服を適当につけていたけれど、リロイと旅するようになってから、ファルチェの持ち物は綺麗なものが随分と増えた。

 さっぱりした麻の下着の上に、袖口の大きく広がったたブラウスを着る。腕を鎌にしても破けないようにと、最初にいった街の仕立て屋で、リロイが特別に注文してくれたものだ。
 それから膝丈のジャンバースカート、靴下に革のブーツと履いていく。
 最後に髪を縛り、リロイとおそろいの黒いマントを羽織れば完了だ。

 着替えや他の持ち物が入った防水布の鞄を抱え、身支度を終えたファルチェは、窓のカーテンを大きく開けた。
 この部屋は宿の三階で、近くの広場までよく見えた。

 今日は雲一つない晴天で、円形の広場には大勢の人間が行き来している。荷車を引いた行商人に、花売り娘に新聞売りに靴磨きなど、商売に精を出しているものも多かった。
 広場の正面には荘厳な教会があり、大きな時計はもう正午近くを告げている。

 ファルチェは時計を睨むと窓を閉め、寝台の端にどさっと腰を降ろした。
 リロイが急にちょっと姿を消すなんて、よくあることだ。少し待っていれば、平気な顔でヘラヘラして帰ってくる。
 でも……今日はなぜか、妙に心臓がドキドキして、背筋が寒くなる。

(……あ、そっか)

 不意にその理由に気づき、いっそう悪寒が増した。
 昨日、奴隷商人の館で、リアンは目的の品物を手に入れたようなのだ。

 全身が鎌になっている間、ファルチェの意識はなくなるが、あの地下室を出る前に、リアンが足元に落ちていた紙束を大事そうにしまうのがチラリと見えた。
 つまり、もうリロイは旅の目的を果たしたわけで……。

「――――――っ!!」

 いきなり、ゾワッと全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、ファルチェは寝台から飛び起りる。

「は、はぁ……っ、はぁ……っ」

 急に息が苦しくなって、大きく口を開けて喘いだが、上手く空気が取り込めない。

 ――『しばし一緒に、煉獄を生きようよ。ファルチェ』

 初めて会った日に言われた、リロイの言葉が脳裏へ鮮明に蘇る。
 奴は『ずっと一緒』とは言わなかった。『しばし』が、具体的にいつまでとも……別れる時には、呪いを解くとさえも言わなかった。

――『あんただって、いらないから捨てられて、ここに売られたくせに!!』

 今度は、カーラの声が頭に蘇る。

「違う!! 違う違う!!」

 嫌な想像を追い出そうと、必死に頭を振って怒鳴った。
 昨日、リロイがすごく変な顔をしたり、やけに満足させてくれたのは、これでもう最後だからだったなんて……っ!! 

「そんなわけ……っ!」

 ファルチェは唇を噛み、荷物を掴んで部屋を飛び出した。
 一階でカウンターを磨いていた宿の主人は、血相を変えて飛び出したファルチェに驚きつつ、お連れさんなら朝早くから広場の方へ出かけていったと教えてくれた。

 数日分の宿代は先に払ってあるので、主人は広場へ駆け出すファルチェを、笑顔でいってらっしゃいと送り出す。


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