地下室にて-3
「――ファルチェ」
頬を優しくペチペチと叩かれ、ファルチェは薄く目を開き覚醒した。
全身を変えた後はいつもの事だが、指一本動かすのも億劫なほど疲れきっている。
薄いシュミーズも下着も消し炭になってしまったので、裸のままリロイの膝に抱きかかえられていた。
目玉だけ動かして周囲を見ると、そこら中に土と砕けた岩が散乱して、しっちゃかめっちゃかになっていた。
天井はといえば、最上階近くまで見事に吹き抜けている。
――疲れるわけだ。リロイはファルチェを好き勝手ブン回して、大暴れしたらしい。
「……」
もはや声を発する気力もなく、ジロッとリロイを睨むが、こいつが反省などするわけがない。
「はい、約束」
ニコニコ上機嫌なリロイが、片手でファルチェを支えたまま、もう片手で自分のマスクをずらす。
すっきりした鼻梁と、微笑をたたえた口元が露になった。
ファルチェの喉が、コクリと鳴る。
リロイがファルチェの頬に片手を沿え、顔を近づける。
甘くて良い匂いのする唇が触れる寸前、もう我慢できなくなった。ファルチェは必死に両腕を持ち上げ、リロイの首に回して引き寄せる。
「んっ、は、ん……」
ヌルリ、と口内に滑り込んできた舌に、自分の舌を絡めてしゃぶり、流しこまれる甘い甘い唾液を嚥下した。
ファルチェを四六時中苦しめる、胃袋では満たせない飢えを和らげるのは、リロイの体液だけ。それも、奴が【与える】ことを許可していないと駄目だ。
それが、リロイのかけた呪いだった。
ただ――リロイと出会うまで、ファルチェが他に飢えを満たす手段を持っていなかったのも事実だ。
生まれてからずっと飢えに苛まれ、それを満たせずに苦しんでいた。
ある日、森に現れたリロイは、襲い掛かってきたファルチェを倒し、この呪いをかけた。
初めて味わった飢えを満たす強烈な快楽は、呪い以上にファルチェを縛り上げたのだ。
ヒリヒリと耐え難い飢餓を訴えていた全身が、じんわりと温かくなっていく。
この満足感はあくまでも一時的なもので、すぐにまた飢えてしまうのだけれど、それでも構わない。
「ふっ……ぅ、ん……あっ」
コクコクと喉を上下させ、夢中で唾液を貪り飲んでいたら、いきなり顎を掴んで引き剥がされた。
「なんで……全然足りない……」
「さすがに、ここはもう去らないとね」
恨みがましい顔で睨むと、リロイが苦笑して上を指差す。はるか上階から騒ぎ声が聞こえるのは、そろそろ警備隊が着いたからだろうか。
リロイは自分のマントを脱ぎ、ファルチェをすっぽり包む。それから、名残惜しく濡れた唇を舐めているファルチェの舌を、指先で突っついた。
「残りは宿で、思う存分食べさせてあげるよ」