奴隷商人の館にて-1
窓も家具もない殺風景な小部屋に、十人ほどの少女が集められていた。
貧しい家庭から売られてきた少女たちは、いずれも十四〜六歳といったところ。親には相場よりも高値が支払われただけあり、特に見目の良い美少女たちだった。
しかし、これから彼女たちには、これからもっと高い値段がつくだろう。
数時間後にはオークションにかけられ、金持ちの生きた玩具となるのだから。
部屋は地下室らしく、漆喰塗りの壁はひんやりと湿っぽい。
体型が判りやすいようにと、少女達の着ていた衣服は取られ、代わりに丈の短いシュミーズと陰部を覆う小さな下着だけを寄越されていた。
シュミーズも下着も真新しいものだったが、しょせん肌着には変わりない。
不安そうな少女たちは、短いシュミーズを引っ張ってできるだけ体を隠しつつ、身を寄せ合うように壁際へ座り込んでいる……一人を除いて。
一人だけ、固まっている少女たちと部屋の反対側にいる少女がいた。
仲間外れにされたという様子でもなく、冷たくて硬い石の床にゴロンと寝そべり、時おり暇そうに欠伸をしている。
自分の置かれた境遇をまるきり判っていないように呑気な態度だし、下着姿を恥じる様子もない。だらしなく寝転んでいるので、真っ白い太ももの付け根まで丸出しになっている。
少女達は、そんな彼女へ困惑するようにチラチラと視線をやっていたが、やがて一番大人びた黒髪の少女がそっと声をかけた。
「……ねぇ、こっちに来ない?」
「ファ〜ぁんへ?」
大あくびをしながら返事をした少女――ファルチェは、面倒くさかったが一応言い直した。
「なんで?」
「なんでって……あ、私はベルタって言うの。この子はカーラだって。私達はみんな、ここで会ったばかりだけど……」
「えっ、脱走計画でも立ててんのか!?」
ガバッと半身を起こしたファルチェに、ベルタが目を見開いた。
「まさか! 逃げるなんて出来っこないじゃない。外には見張りだっているし、逃げたりしたら酷い眼にあわせるって、ここに来る途中で言われなかった?」
とんでもないと首を振るベルタを前に、ファルチェは胸をなでおろした。
固まってプルプルしているだけだと思ったら、意外と根性あるヤツがいたのかと、ギョッとして損した。
こっちにも都合があるんだから、勝手に動かれたりしたら、すごーく困る。
安心してまたゴロンと寝そべり、黙って天井を睨んでいたら、ベルタがまた話しかけてきた。
「無理しなくても良いのよ。不安なのはみんな同じ。一人でいたら、もっと怖くなっちゃうでしょ?」
「別に怖くない。そっちが狭いからここにいるだけ」
ヒラヒラと手を振って断ると、ベルタの隣に座っている、カーラと紹介された金髪の少女が顔をしかめた。
「平気だって言うんだから、放っておこうよ」
カーラはファルチェを睨み、苦々しげに言い捨てる。
「ちょっと綺麗な顔で髪の色も珍しいからって、自分が粗末に扱われるはずないって自惚れてるのよ、きっと。どこのお金持ちに買われても、ご主人様から大事に可愛がって貰えると思ってるんじゃない?」
事実、ファルチェはこの部屋の中にいる美少女たちの中でも、飛びぬけて綺麗だった。
長い白銀の髪は、冬の月光を紡いだように神秘的な輝きで、透き通るような白い肌は、どこもかしこも陶器人形のような滑らかかさ。
すんなりと細い華奢な手足と小柄な体躯は、強く抱きしめれば壊れてしまいそうだ。
そのくせ、シュミーズを押し上げている乳房はしっかりと質量があり、寝返りを打つたび柔らかく揺れる。
宝石のごとく美しい紫色の大きな瞳に、小さなサクランボ色の唇や形の良い鼻も、どこもかしこも非の打ち所がない。
黙っておしとやかにしていれば、花の妖精と称えられんばかりの美少女だ。