柔らかい朝-3
「わたしはね、テニスを続けたかっただけなの。この大学ってテニス強いじゃない?だからなの」
たしかに、明るくなった部屋の中に見えるものはテニス用品ばかりだった。
「え?それだけなんですか?」
「そう。それだけ」
弘美はあっけにとられた。
「でも、将来のこと考えたり、親からいろいろ言われたり、しませんでした?」
「いちおうは考えたよ。でもそれは建前で、本音はテニスをやりたかっただけ」
拍子抜けした。
そんなもので良いのか。
弘美にとって千帆は、この大学に入ってから初めて強く意識した憧れの人物である。
その人がこの大学を選んだ理由は、あまりにも単純だった。
弘美はスッと肩の荷が下りたような気がした。
「へ〜。そうなんだ…」
気が楽になった弘美の顔に笑みがこぼれた。
「わたし、もしかすると、難しく考えすぎていたのかもしれない…」
気持ちがリラックスすると、つられて身体も反応した。
グーッと胃が鳴ったのだ。
「千帆さん、わたし、お腹すいた」
千帆は、弘美がすっかり元気になったことを喜んだ。
「出た分、お腹すいたんでしょ?あれだけ出たんだものね〜」
少しからかう。