黄土色の海-5
その時、便器の付け根の方から怪獣が鳴いたような音がした。
すると、幸いなことに水位が少し下がったように見えた。
これはチャンスかもしれない。
水洗タンクが満タンになるのももどかしい。
千帆はもう一度レバーを倒した。
バシャ!ブジュブジュ〜
またしても水位が上がってしまう。
「あぁ、ダメか」
千帆が悔しそうに言った直後、しかし、こんどは手応えがあった。
グゴゴ、ゴゴッ!
怪獣が水の底から空気を吸うような音がして確実に奥へと汚物が吸い込まれ始めたのだ。
「流れるかも!」
水洗タンクが満タンになるたびに千帆は必死に水を流しつづけた。
ゴゴゴ〜ッ!
忌まわしい汚物が渦巻きながら吸い込まれていく。
その後には、きれいな水洗水が便器の中を支配していった。
5回ほど水を流すと便器は元の姿を取り戻してきた。
二人は勝ったのである。
弘美は緊張と疲労で、足腰がガクガクして立っているのもやっとだった。
放心して動けない。
その様子を見て、千帆は優しく声をかけた。
「もう終わったのよ。わたしたちの逆転勝ちよ」
♡ ♡ ♡ ♡
二人は、千帆の部屋に戻った。
弘美の腹痛はすっかり消えていたが、自室へは帰らなかった。
無性に千帆と一緒に居たかったのである。
部屋にはまだ浣腸の痕跡が無造作に残されていた。
ふたが開いた小箱と千帆が破いたポリ袋、そして押し潰されたピンクの球体。
それを見ると、先ほど繰り広げられた治療を思い出した。