黄土色の海-3
「あぁ、ダメだわ」
これでは詰まって溢れる可能性の方が高い。
「弘美ちゃん…。管理人さんに言おうか?さっきはあんなこと言ったけど、ここは女子寮だから、便秘のことなんて皆気にしないわよ。わたし女子校出身だから分かるけど、女子は便秘の子多いから、そういうものなの」
さすがに、便を溢れさせた後のことを考えると、ここで一気に流すのは無謀に思えた。
(千帆さんが弱気になっている)
弘美は思った。
(千帆さんは、便秘に捕らえられ困り果てている自分を見捨てず、一緒に闘ってくれた…)
おかげでやっと便秘を退治できた。
しかしその後、二人で逃げてきた迷路の最後の最後に、行き止まりの柵が待っていた…。
思いは固まった。
「千帆さん。わたし、どうなっても構わない。言いふらされても、寮に居づらくなっても構わない。千帆さんの言うとおりにする。だって…」
そこまで言うと、弘美の声が涙で詰まった。
「だって、助けてくれたの、千帆さんだもん。助けてくれなかったら、わたし、まだ一人で不安で、お腹、治らないままだったもん…」
弘美は千帆の胸に飛び込んで泣いた。
誰かの胸の中で大声を出して泣くのは久しぶりだった。
いや、思い出してみると、母親以外の胸の中で泣いたことはなかった。
今初めて、弘美は母親以外の胸の中ですべてをさらけ出して泣いているのだ。
千帆は弘美を抱きしめて、泣く子をあやすように頭を撫でた。
そして思った。
やはり、この子に恥をかかすわけにはいかない。
大ごとにしてはならない。