母からの電話-8
身体がどんな状態になればこんな悪臭になるのか千帆もよく知っていた。
逃げようがなかった。
弘美は顔を赤らめてうつむいてしまった。
「弘美ちゃんは便秘症なの?」
「ちがうんです。高校まで便秘で悩んだことなんてなかったんです。わたし、初めてなんです。こんなに重い便秘…」
弘美は思い詰めたようにそう説明した。
「どれくらい出てないの?」
「いつも1週間くらいは出ないんです。大学に入ってからずっとそうなんです」
「寮の生活が合わないのね?」
その問いに弘美は千帆から顔を逸らした。
しかし、深刻そうに歪んだ表情は洗面台の鏡に映って千帆から見えた。
「それなら、寮の先輩にも責任があるわね」
「そんなことありません!」
弘美は即座に否定したが、千帆は言い聞かせるようにはっきりと宣言した。
「いいえ。わたしは寮の先輩ですからね。ちゃんと後輩の悩み相談にも乗るのよ。この寮では代々、皆そうしてきたの。とにかく、わたしのお部屋にいらっしゃい」
そう言われては仕方がない。
弘美は従うしかなかった。