憂うつな春-6
下腹部の重さが増すのに比例し、弘美の再受験への想いは強くなっていった。
「この大学、嫌いなん?」
(わたし、この大学が嫌いなのかしら?)
たしかに他の大学が第一志望だったが、この大学を嫌いで逃げ出そうとしているのだろうか。
修二の問いかけに答えられなかった。
困惑した表情を浮かべる弘美に、修二はそれ以上の追及はしなかった。
ただ、残念そうにつぶやいた。
「なんか、もったいないなぁ…」
♡ ♡ ♡ ♡
一日の講義がすべて終わると、弘美は再び自転車を走らせた。
寮に続く小路である。
なだらかな上り坂に差し掛かると、スピードが一気に落ちた。
ペダルに力を込め、ゆるゆるとカーブに差しかかる。
前から、ラグビー部のガタイの良い部員が数名、ランニングをしながら近づいてきた。
ラグビー部員たちの後ろから自転車が近づいていたが、弘美の方が先にラグビー部員とすれ違うはずだった。
ところが、下り坂の相手の自転車は思いのほか早く近づいてきてしまった。
そして、運悪く3者はすれ違いのポイントで同時に横に並びかけてしまったのだ。
ガタイの良い部員たちが道幅を取るなか、相手の自転車に乗る男子学生は弘美の前に大きくはみ出してきた。
このままでは正面衝突してしまう。
「キャッ!」
弘美はハンドルを切って避けようとする。
なんとかぶつからず相手の自転車をやり過ごしたが、その後よろよろとバランスを崩し路肩からはみ出てしまった。
ガタン…、ガタン!
自転車は横倒しになり、後輪がカラカラと空転した。