憂うつな春-5
今までにも弘美から何度か誘いを断られているが、修二は諦めが悪い男だった。
「そんなこと言わんと。球技場の先の第二体育館、まだ行ったことないんやろ?」
弘美はうなずいた。
「そんなら、いろいろ場所も覚えておいた方がええんちゃう?ウチらこれから先、まだまだ4年間もあるんやし、今のうちに覚えておいたほうがええで」
“4年間”
この言葉に弘美は過敏に反応した。
なにか神経を逆なでされたような気がしたのだ。
「4年間って!修二はわたしが4年後にこの大学にいるって、なんで分かるの?」
ムキになって反論してきた弘美に修二はたじろいだ。
「へ…?どしたん?」
びっくりしたサルが口を半開きにしたような顔をしている。
「前にも話したけど、わたし、この大学に入りたかったわけじゃないの。やっぱり、入りたい大学に行きたかったなあ、と…。だから、もしかすると再受験して来年の今頃はここに居ないかもしれないし」
それは、4月以降、弘美が心の中で少しずつ想い描いてきた計画だった。
田舎の生活は不便かつ退屈で、静かで暗い夜に押し潰されそうな気持になった。
入学して1週間で早くも東京の生活が恋しくなった。
そして寮生活。
みんなと暮らす寮の生活そのものは嫌いではなかったが、身体が変調をきたした。
田舎の水が体質に合わないのだろうか。
大学生活のスタートとともに始まったひどい便秘は一向に治る気配がなかった。
これから先も、この田舎の大学に居つづけるかぎりこの重苦しい便秘に悩まされるのだろうか。
(ここから逃げ出したい!)