憂うつな春-2
弘美の父は大企業の本社勤めである。
「せっかく受かったんだ。浪人するからといって、希望の大学に来年受かると決まったわけじゃないだろう?」
父親はこう言った。
「行けばきっと気に入るから…」
自転車で丘を登って熱くなった身体から汗がにじみ出て、シャツがじっとりと肌にまとわりついた。
「お父さん、わたし、ぜんぜん気に入らない!」
弘美は忌々しく呟くと、再び自転車を漕ぎだした。
語学の必須授業がある校舎に着くと、弘美は教室へは向かわず真っ先にトイレへと駆け込んだ。
小用のためでもなくお腹を下していたわけでもなかった。
その反対で、このところ慢性的に便秘だった。
膝丈まであるスカートをたくし上げ白のパンツを下ろすと、洋式のトイレにしゃがんだ。
まだ講義の時間には早く、女子トイレには誰もいなかった。
弘美は少しほっとした。
というのも、大学に入学して以来、安心して排便できない状況が続いていたからだ。
入学してから生活を始めた寮のトイレでは落ち着いて用を足せなかった。
寮のトイレは古い共同トイレだった。
朝の個室争奪戦に敗れて便意を逃すこともあった。
寮の先輩とトイレで鉢合わせして便意が遠のいたこともあった。
やがて弘美の排便ペースは1週間に1回程度になってしまった。
粘土でも詰められたかのような下腹部の重苦しさ。
食欲はめっきり減退し、不快感が一日中続いた。
高校までは便秘と無縁だった弘美にとって、それは心身ともに過酷な状態だった。
今日もまた1週間出ていなかった。
なんとかここで出してしまいたい。