『graduation番外編〜彼女が嫌いな彼女〜』-6
そう。雪見先輩は完璧だ。
美人で頭も良くて人当たりも良い。
たまにサークルに顔を出すと、皆に囲まれている。
完璧すぎて、うそ臭い。
姉のように。
だからかもしれない。
あの人も姉と同じ様な汚い人間なんだと、証明したい。
「嫌いなのかも。」
「は?」
「あの人の顔が醜く歪むのを見てみたい。」
隆志は一瞬止まって、お前ってホントSだなと言った。
そして思いがけず直後、あたしたちはその顔を目撃することとなる。
学食から部室へ行こうと階段を上がっている途中だった。
「ありえん。あの教授、2年もゼミにいるのに私の名前忘れてたよ。やつが『妖怪物忘れ』だということを佐伯、100文字以内で証明せよ。」
ワケの分からない内容の話だが、話している人間が誰かは声ですぐに分かる。雪見先輩だ。
部室から階段を下りてきている。
会話からすると横にいるのは佐伯先輩だ。
「あゆみ。」
突然声を掛けられて横を見ると、都築先輩だった。どうやら彼はこれから部室へ向かおうとしているところだった。
「お〜ツヅキ!あゆみに隆志までおそろいかよ。」
佐伯先輩は都築先輩に気付いて手を振った。その拍子に佐伯先輩の手から1枚のプリントが雪見先輩の足元に落ちた。
「あっ。」
その場にいた誰もが息を飲んだ。
ヒールの高い雪見先輩のサンダルが見事にそのプリントを踏む、滑る...
「きゃっ」
短い悲鳴が聞こえて、雪見先輩が階段から転げ落ち......
思わず目を瞑る。
しかし、目を開けると思ったような惨状は起こっていなかった。
代りに目に飛び込んできたのは、都築先輩が3段ぐらい転げ落ちた先輩を抱き止めている姿だった。
都築先輩自身、支えきれなかったのか階段の上で座っている。