Haru:「久しぶり」-3
オナニーが終わった後に、私が出て行って、このことを全て話すという考えも私の中にあったが、私のことなんて忘れるぐらいが、お互い程よく熱くなれてちょうどいいし、私も受験勉強に集中できたのは確かだ。
一緒に居るのは好きだけど、距離感が近すぎて、自分の時間が作れなくなって破綻してしまうのは…ダメね。
これが、事の顛末。
私の行動は結局自己満足に過ぎないし、自分勝手すぎた。
「(二人に好かれる資格なんて本当はないんだよね、私。)」
そんな昔のことを考えていると、少し様子がおかしいことに気付いた。
瑠奈の口に勇樹の手と思わしき指が突っ込まれていて、瑠奈は怯えてるような雰囲気だ。
勇樹が発情して、嫌がる瑠奈に行為を強要するとも思えないし…これは。
瑠奈は勇樹の方をずっと見ていたので、気付かれないと思い、更衣室の中へとそっと入って行くことにした。
非情にリスキーだが、この状況を私以外の第三者に見られるはやっかいだし、まず更衣室のドアを瑠奈に気付かれないようにそっと閉める。
そして、二人のいるシャワー室の死角を歩いていき、カーテンから見えないところへと腰を掛ける。
「俺はね、彼女とはこう…、一切しなかった…真似事を…、ドン引きされそうだったから。だから、エッチ以外のことを瑠奈ちゃんになんでも…頭の中にある性欲を、その…ぶつけてやろうって思った。」(※P.36)
勇樹の声は、所どころ小さくなって聞こえ辛いものだったが、言わんとしてることはなんとなく理解できたし、それもやはり私の想定内のことだった。
勇樹の秘めたる欲望は、こうして瑠奈へと形に出ているのだから。
その後も、勇樹と瑠奈の会話をしばらく盗み聞きしていた。
瑠奈という体を前にしても、勇樹の中には私がちゃんといて、勇樹は我慢してくれていた。
それがなんだか嬉しくて、二人のやり取りを聞いていく内に、私自身も興奮し始めていた。
「(久しぶりだな、こんな風にドキドキするの。最近こういうのもなかったし…。)」
初々しいものを聞かされてる気分になって、思わず付き合い始めの頃のことなども頭に過ったり。
「俺のここと、瑠奈ちゃんのここ。体で繋がっていたんじゃない。そんなことをしなくても、お互い気持ち良くなれるような、心で繋がっていたいんだよ。体と心、両方繋がるのは、彼女だけでいい。」(P.36)
勇樹のこの言葉は、一字一句間違えることなく私は聞き取ることができた。
普通逆じゃない?
なんだかおかしくなってしまったが、きっと勇樹の良心は、瑠奈をただの肉の入れ物として扱うことを許さないのだ。
エッチなことは求めても、そこに心を失くしてしまったら、瑠奈は本当にただの肉塊だ。
勇樹にとっては、愛すべき肉塊なんだね。
そんなもの、聞かされたら…私も二人を欲しくなってしまうじゃない。
「勇樹、いいこと言うね。私のことも、友達のことも大事にしてくれているんだね。」
私がそういうと、シャワールームから物音が一切聞こえなくなってしまった。
二人がどんな顔をするのか内心楽しみで仕方がなかった私は、シャワールームのカーテンを開けた。
「陽…。」
「陽ちゃん!?」
二人はほとんど同時に私の名を呼ぶ。
そして、勇樹と瑠奈は首を傾げていた。
「え、瑠奈ちゃんって陽の知り合いなの…。」
「勇樹くんの彼女って…陽ちゃん?」
勇樹は、やはり私が手紙を出したことを薄々気づいていたのか、冷静な表情をしていたが、瑠奈の方は気が動転しているらしい。
「あのっ…私、陽ちゃんが彼女って…聞いてなくて…。」
瑠奈が今にも泣きそうな表情をしているのが、私はまた愛おしく感じてしまうのだが、一先ず今までの種明かしを軽く説明することにした。
「だから、あの手紙を書いたのは、私なんだ。」
細かいところはさておき、とりあえず私が何故勇樹と瑠奈を巡り合せるかを説明した後で、手紙を出したことを私は二人に告白した。
勇樹は、罪悪感に苛まれたような表情をしていて、瑠奈は顔を伏せてしまった。
勇樹は、大丈夫だけど…瑠奈がダメね。
「勇樹、ちょっと瑠奈と二人きりにしてくれる?」
「え、でも…。」
私は瑠奈の方を見て、
「瑠奈、あなた今日体育の補習出たらもう今日はおしまいなんでしょう?」
と聞くと、瑠奈は首を縦に1度だけ振った。
「じゃあ勇樹は、瑠奈の補習が終わったら、瑠奈と一緒に私の家に来て。大丈夫、これは私が望んだこと。浮気とも思ってないし、勇樹は悪くないよ。後でゆっくり話そう。」
「わかった。」
勇樹はそう言って、脱いだ服を着直して更衣室を出た。
勇樹が更衣室のドアを閉めて、足音が聞こえなくなっていくのを確認する。