諦めきれず…-4
「うわぁー、嬉しい!まさか君の方から僕の家に来てくれるだなんてっ!」
「風馬君…。」
扉を開け、案の定激しく舞い上がる彼。
「ねぇケーキ食べてかない?今ねぇー丁度ケーキを焼いてる所なのっ!」
「へぇー、昔っからスイーツ作るの得意だもんねぇー。」
「得意、というか好きなんだよねー。」
エプロンに頭巾と本格的な身のこなし。
「ほらっ!入りなよ!後はケーキを切るだけだから!」
そう言ってまんべんの笑みで腕を伸ばす彼。
「あ…その。」
「なーんで避けるの?そっちから来たんでしょ?ようやく僕に会いに。」
怯えて一歩下がる私。そこに。
「別に、お前に会いに来たんじゃねーぞ。」
「!!」
盾になるように私の前に立ち、風馬君の腕を手で弾き飛ばす佐伯君。
「あれれー佐伯君、それに君は確か伊吹さん。」
ようやく私一人で訪れた訳ではない事を理解し、表情をこわばらせる彼。
「もう、ゲームオーバーだよ?小鳥遊君。」
「えっ?何の話?」
悪魔でシラを切る彼。
「すっとぼけんな、お前が先輩をすそのかせて、今度は早乙女先輩とくっつけようとしたんだろう。」
「訳わかんないなぁー、誰?酢乙女先輩って。」
「早乙女だっ!朝突然電話が来て、泣きながら「お母さんが倒れた」って…。それから
俺は…、やも得ず彼女と付き合って。」
「そんなの彼女が勝手にやった事でしょ?僕、関係よ…。」
「あのね、先輩はとっても強気な女なの、そんな彼女が一人でそんな真似を。」
「あの日、音楽室に先輩に呼ばれた…、もう一度よりを戻そうと持ち掛ける彼女だが既に
恋人のいる俺は速攻に断り泣かせてしまった。」
「……。」
「すすり泣く先輩に後ろ髪を引かれて…。だが同時に奇妙な視線を感じた。」
前にもこんな光景が…。
「アンタが彼女の背中を押して、入り知恵したんでしょ。」
「…ふん、そんな事して僕に何の得がある訳?」
「あるわ、先輩とあたるがアンタの思惑通りそれでよりを戻したら、あたるは若葉と別れる事となる、そうなればアンタには彼女と付き合う事が出来る…と言うか出来ると自分の
中では思う。」
「…例え彼が先輩と付き合ったって君とは付き合わないよ。」
「…良く出来た空想だね、証拠でもあるの?」
「先輩が全部吐いたぞ、「柊さんの幼馴染って人が話を持ち掛けた」って。」
「……。」
「今舌打ちしたろ。良いんだぞ?それなら本人に直接聞いても。」
犯人を追い詰める推理モノみたい。
「フ…フフフ……アハハハハハハハァッ!」
「!!」
開き直るように狂笑する彼。
「アンタ、やっぱり…。」
「あぁーあ、使えない人だなぁー、本当に好きならもっとアタックしないと。」
そんな、いやでも。
「でも、僕は…。」
「僕は…何だ?諦めないってか?」
「そうさっ!悪い?僕は彼女を!」
「勝手な男。」
「え?」
「そんな事をして、この子が喜ぶと思ってる訳?」
「…僕は、僕だって本当は。」
表情が一層渋くなる、その瞳に偽りは感じない…でも。
「まっ、諦めるつもりがないならそれで良い、けどハッキリ言う、お前の思いは絶対に
叶わない。」
「そうよ!アンタはまだ可能性があるって思ってるんでしょうけど、既に失敗してるからね、それも2回も。」
「俺と元カノの巴をくっつけようとして失敗して、今度も元カノの先輩をくっつけて。」
「先輩とあたるが一緒になりだした時から薄々思ったよ、独身欲の強い何者かが一枚絡んでる…てね。」
「で?次はどうするんだ?まさかまた俺に誰かとくっつけるつもりか?」
「まぁアンタからしたらチャンスは一杯あるわよね、なにせこいつはモテるから、バレンタインの時何か、大量に貰って。」
彼の事は憎い、でも…少し哀れに見える。
「いいかっ!これだけは言っとく!お前がどんなに別の女をくっつけようとしたって俺の
思いは変わらない、俺は彼女を愛している!どこの誰よりもっ!」
「……。」
「また彼女に近づいてみろっ!何度だって振り払ってやるからなっ!」
言葉を完全に失う彼。
「さぁ!行こう若葉。」
「こんな所1秒でも居るべきではない。」
沈みに沈む彼、そのまま勢い良く居間に戻る。何だろう嫌な予感が。
「ほら若葉!何アイツの方を振り向いてんのさっ!」
「目が汚れるぞ、ほらっ!」
二人に促されるまま彼の家を後にする。
「で?イルミネーションいつ行くの?」
「そうだなぁー、お互いに都合が合えば。」
「…今度はちゃんと待ち時間前につくのよ。」
「あぁ、勿論わかって……ぐ。」
「……今でも思い出しただけで、って聞いてるのあたる。」
「へっ?佐伯君っ!?」
急に倒れる彼、背中には大量の血が。
「ちょ!」
そのままぐったり倒れる彼、そしてその近くには血のついた包丁を持つ風馬君の姿が。
「あたるっ!あたるっ!」
そんな…。
「いや、嫌々…。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
第18話に続く。