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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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出会い系サイト-2

 その夜、ワンルームのマンションの部屋で木製のサラダボウルに盛った生野菜と、スライスしたバゲットにチーズを載せてトーストしたもので夕食を取っている時、テーブルに置いたケータイが鳴った。
「ミカじゃない。どうしたの? 急に」
『いやあ、一人でどうしてんのかと思ってさ』
 大学時代からの親友ミカは相変わらずの豪放磊落な口調だった。
「今、晩ご飯済ませたとこ」
『そう。ところであんた、まだ結婚とかしないの?』
「何よ、いきなり」
『いきなりじゃないだろ? あたしが電話する時は必ず訊くだろ?』
 美紀は呆れたようにため息をついた。「相手がいないからね。それがメインの話?」
『まあ、メインといやメインだね。変な虫があんたについてたらどうしよう、と思って。たまにこうして電話しとかないと、なんかね』
「ご心配なく」美紀は笑った。「スクール、流行ってる?」
『お陰さんでね。生徒もいっぱいで毎日忙しいったらありゃしない』
「あんたがスイミングスクールの経営者になるなんて夢にも思わなかったわよ」
『まあ、ケンジもあたしもその道一筋だったからね。前の経営者が気に入ってくれたのは実にラッキーだったよ』
「海棠君もあんたもナイスバディだしね。もしかして色仕掛けで生徒を引き込んでるんじゃない?」
『ケンジ目当てで入校してくる女子高生は確かに多い』
「妬けるでしょ?」
『別にい。ケンジ、あたしにぞっこんだから。今でも』
「はいはい、ごちそうさま」


 この春先にそのミカが美紀の部屋を約二年ぶりに訪ねてきた。その時、彼女はバスルームを開けた途端「ああ、美紀の匂いがする」と叫んだのを思い出す。
「シースパイス。MUSHの。あんたほんとに好きだね。ずっと愛用してるんだ。高校の時からって言ってたね」
「落ち着くのよ。この香り。広い海に包まれてるみたいで」
 美紀の部屋のバスルームにはその時も今もシースパイスの香りが充満していた。美紀が高校生の頃に出会って一目惚れしたMUSHの石けん『シースパイス』。

 ミカは美紀にとって気の置けない友人だった。大学に入学した時から、水泳サークルで最も気の合った同期生だった。その時も今も二人はお互いに心の内を何でも話すことができた。それにミカは美紀の些細な表情や態度、口調や行動で、その時何を考えているか勘付くことも少なからずあった。

 その晩、寝る前にミカがスウェット姿で歯磨きをしている時、テーブルに無造作に置かれたケータイについていたストラップに目がいった美紀は、タオルで口を拭きながら戻ってきたミカに言った。
「このストラップ、素敵ね」
 ケータイを取り上げ、『SWIMMER’S CAFE』と彫られたその短冊形の革のストラップを見せながら、ミカは言った。「うちと取引があるスイミング用品のショップなんだ」
「エルムタウンにもあるわよ。結構流行ってるみたい」
「お店の名前がおしゃれだよね」
「あれ、裏にも何か……」
 ミカはそれを裏返して見せた。そこにはK.K.とM.K.というイニシャルが並べて彫られている。
「あんたのイニシャルと、ケンジくんの、だよね?」美紀はにっこり笑った。
「サービスしてくれるっつーから彫ってもらったんだよ、店のマスターに」
「あんたがそんなにかわいらしいことする女だなんて思ってもいなかった」美紀は悪戯っぽく笑った。「でもいいなー、ラブラブで。ケンジ君、あんたを大事にしてくれてるんでしょ? 今も」
「彼のキスは最高なんだ」
「そんなこと訊いてないんだけど……」
「それにあたしのバストも太股も、身体中あちこち優しく撫でてくれてねー、それだけでもう夢心地なんだよ」
「まーうらやましい」
「あんたはまだ彼氏作んないの? 寂しくないの?」
「いいの。めんどくさい」
 ミカはにやりとして言った。「あたしが揉んでやろうか? その格好いいおっぱい」
「遠慮しとく。あたしにはそんなシュミはない」
 あははは、とミカは笑った。

「それにしても、」ミカが言った。「あんたなんでそんなだぶだぶでしわしわのシャツ着てんの? 男物じゃない」
「そうだけど」
「部屋着はいつもそれ?」
「そうだよ。メンズはゆったりしてて落ち着くの。それに綿だと肌触りもいいし」
「ボタンダウンの男物……。彼シャツってんならわかるけどね」
「人の勝手でしょ」
 美紀はテーブルに置いた紅茶のカップを持ち上げた。

 ミカが唐突に言った。
「近いうちにさ、同窓会やろうよ」
「同窓会?」
「大学ん時の部活の例のメンバーでさ」
「懐かしいね。いいかも」
「5月頃に設定すっから。日程調整、あたしがやっとく。場所はうちの近くでいい?」
「いいけど……みんなをすずかけ町に呼びつけるの?」
「いいじゃない、たまには。つまみが激うまの居酒屋があるんだよ『らっきょう』っつって」
「そうなの」
「あんたはあたしん家に泊まりなよ。久しぶりにさ」
 美紀はにっこり笑った。「龍くんおっきくなったよね。楽しみ」
「じゃあ決まりね」


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