忘れられない香り-4
それでも美紀もしばらくするとうとうととし始めた。その時、眠りかけた彼女の耳に、自分の名を呼ぶかすかな声が届いた。
はっとして目を開けた美紀は床に寝ている洋輔が頭をもたげて自分の方を見ていることに気づいた。
「美紀先輩……」
「どうしたの?」美紀が言うと、洋輔は身体を起こした。窓から差し込む街灯の白い光が、彼の逞しい裸の上半身を浮かび上がらせた。
「起きてたんすか?」
「眠りかけてた……」
「先輩……俺……」
美紀はある程度覚悟していた。歳の近い男女が一つの部屋、そして夜。男という生き物がその状況で考えること……。
「久宝君、エロモードに入ったんでしょ」
「いや、あの……」
「男の子ってそんなものなんでしょ?」
「ご、ごめんなさい……」
「あたしを……だ、抱いてみる?」
美紀は自分でも驚くほど大胆なことを口にした。しかし、それと同時に身体がかっと熱くなり、動悸もますます速くなっていった。
洋輔は薄暗がりでもわかるほど目を見開いた。「い、いいんすか? 先輩」
「あたしが久宝君の目に、抱きたい女として写ってるのは、ちょっと……嬉しいかな」
洋輔は美紀のベッドににじり寄った。
「お、俺も嬉しいっす、先輩」
美紀は少し怯えたように顔をこわばらせて目を背けた。「や、優しくね、お願いだから……」
美紀を仰向けにしたまま、洋輔はその狭いベッドの上にまた正座をして彼女が着ていた薄い青色のパジャマのボタンを一つずつ、ゆっくりと外していった。美紀はぎゅっと目を閉じていた。
ごくりと洋輔が唾を飲み込む音が聞こえた。
「先輩って、寝る時はノーブラなんだ……」洋輔は小さく呟いた。
「何も言わないで、恥ずかしい……」
「あ、すんません」
それから洋輔は美紀が着ていたパジャマの上下を脱がせると、身体を傾けて美紀と唇をそっと重ね合わせた。美紀の唇も、洋輔のそれも、細かく震えていた。
洋輔は唇をその頬から耳元へ、そして首筋に移動させながら柔らかく擦りつけた。爽やかで甘く、海を思わせる香りが彼の鼻腔を満たし、彼は思わずはあっとため息をついた。
それはさっきシャワーを浴びている時に、そのバスルームにも立ちこめていた香りだった。
洋輔は美紀のショーツに手を掛けた。美紀の身体がビクン、と小さく跳ねた。彼は思わずその白くすべすべした太股を撫でた。
洋輔はバッグから小さなプラスチックの包みを取り出し、穿いていたボクサーパンツを脱ぎ去ると、その袋を破って中の物を取り出した。
「み、美紀先輩」洋輔はかすかな声で言った。
美紀もやっと聞き取れるぐらいの小さな声で言った。「いつも持ち歩いてるんだね、久宝君」
「す、すんません……」
「いいよ、久宝君……」
「ほんとに……いいんすか?」
美紀は固く目を閉じたまま顔を横に向けて小さく頷いた。