Runa:「優しさの呪い」-6
「本当にごめん瑠奈ちゃん!俺こんなことになるとは思ってなかったんだよ!」
早退のことを担任の先生に伝えた後も、勇樹はそう言いながら私についてきた。
私の中では勇樹がやったことについては、別に責めるつもりはなく、むしろこの体の状態を誰にも気付かれないように過ごさなければならないことに神経を使っていた。
「もういいよ、私怒ってないから。勇樹くんに助けてもらったお礼にこの薬を飲んだんだし、断らなかった私の自業自得。おっぱいでなくなるまで、今日は大人しくしてるから。」
「そっか…じゃあもうこの後帰るの?」
「うん。そうする。」
勇樹は私と並んで歩いていると、いきなり立ち止まり、「ちょっと待ってて。」
と言って職員室の方へと走って行った。
数分が経過して、勇樹が職員室から戻ってきた。
「瑠奈ちゃん、俺も帰る!」
「はぁ?」
私は彼が何を言っているのか理解できなかった。
「瑠奈ちゃんを早退させちゃったから、俺も一緒に帰ることにした。」
「なにそれ、全然お詫びでもなんでもないんですけど。」
どうしてその発想に至るのかよくわからなかったが、これが彼なりのお詫びもつもりなのかと思うと、なんだか少しおかしかった。
「だからさ…。体育倉庫に行こうよ。」
彼がそう言って私は、やっぱり普通に帰してはくれないよね、と思いつつ渋々勇樹と体育倉庫へと入って行った。
勇樹は、体育倉庫の鍵を内側からかけて、分厚いマットの上に荷物を置いた。
「瑠奈ちゃん、もう少しだけ我慢して。俺は…。」
「おっぱいの出る薬を私に飲ませておいて、そのまま何も無し、なんてありえないと思ってたよ。」
彼が自分で言う前に、私は彼のすることを勿論理解していた。
「さっき、トイレで出したのにもう張ってきてるし。」
「じゃあ…」
自分から、彼に身体を触っていいというような事を言うのは癪だったが、これが彼の狙いで、その思惑に乗って薬を飲んだのが私なら、こうなることは最初から必然だった。
「うん…。」
私がそう言うと彼は、「じゃあさ、あの中に入ろっか。」
と奥にある跳び箱を指差した。
「なんで跳び箱?」
そもそもこれから私たちが行う事は体育倉庫でやるべきことではないのだから、このやり取り自体がおかしいのだが。
「この時間は授業はないし、絶対誰もこないけど、万が一のため。それに…」
「跳び箱の中でエッチなことするっての一度やってみたかったんだよね。」
と私の耳元で付け加えた。
「ばかじゃないの。変な動画見すぎだよ。」
思わず呆れてしまったが、やはりどんな時でも保険を作っておくところが、勇樹という人間のぬかりないところだとも思った。
跳び箱の一番上の段を開けて先に私が中へと入る。さすがに、高校で使う9段まである跳び箱は、私一人が縮こまってしゃがむくらいなら余裕でもう一人ほど入れるスペースはあった。
私に続き勇樹も中へ入ってくる。
「へへっ、入っちゃった。」
勇樹はそういうと、私の体に抱きついてきた。
「瑠奈ちゃんは本当に良い子だよね〜、瑠奈ちゃんとエッチなことする度に毎回そう思うんだよね。」
公園の時も、保健室の時も、結局私が出て行かなかったってだけの事で、結局私は彼の思うツボという事実がそこにあるだけだと思った。
「私が今日学校に来ないって言ったら、勇樹くんはどうするつもりだったの。」
彼の先を読んだ発言をすることで彼より優位になったような気分になれると思って、私は尋ねた。
「瑠奈ちゃんの家に行ったかな。」
「私の家のこと知らないのに?」
そういうと、勇樹は私の体から離れて今度はキスをしてきた。
もうキスもいつの間にか当たり前のようにするようになった。
「だから、瑠奈ちゃんが学校にきてくれてよかったと思った。母乳出て大変な思いもしたのに、授業途中まで受けて偉いと思うよ。」
別に授業を出ることは、当たり前のことではないのかと思った。
「それに…やっぱり早退するって言ったらそのタイミングで帰ることもできたし、俺は瑠奈ちゃんが本気で怒りだしたら、多分ここにこれてなかったと思うし。」
彼はそう言って、私に微笑む。
「いつも、俺の我儘に付き合ってくれて、ありがとう。」
まただ。その言葉のせいで私は君に怒れないのだと、心の中で叫ぶ。
恥ずかしくて止めて欲しいことも、今日のことも。
沸騰して泡立っているお湯の中に冷たいものを入れると、温度は下がって泡立たなくなる。
彼は、私が沸騰する前に、タイミングよくクールダウンしてくるところがずるい。
彼の口にするありがとうという言葉は呪いのようなものだ。私は、その呪いに縛られてこうして彼に身体を好き勝手にされてしまう。