N県警察〜粛正の夏・黒崎幸雄の章〜-2
幹部の逮捕。今夜、間違いなく仁科を除いた部長会議が開かれる。
その場で自分は糾弾されるだろう。
キャリア組のN県警本部長や警務部長などが、自分の経歴に傷がついた事への仁科への怒りを黒崎に転嫁して。
刑事部と交通部の確執も避けられない。
退官後に就く事がほぼ決まっていた、N建設専務理事のポストの話も、立ち消えになるだろう。
間違った事はしていない。だが、悔いるだろうか。傍目には暴走と見える今回の行動を。
考えながら記者会見用の下書きに目を通していると、ノックの音がした。
「失礼致します」
部屋に入ってきたのは都築だった。
「ありがとうございました」
笑っている━━。
直立不動でそう言った都築の顔は、笑ってはいないのだがそう見えた。
微笑?違う。自分を信頼し、安心してくれている。そうゆう顔をしている。
だから、黒崎もそれに応えた。
「光ヶ丘でもう1件、ヤマをあげてこい。捜査一課に上げてやる」
「はい!」
頼もしささえ感じさせる背中を見せ、都築は部長室の扉の向こうに消えていった。
悔いる筈は無い。自分を信じてくれる仲間が下にいるのだから。
腕時計を見た。8時48分。
さあ、行くか。
会見用の下書きを持ち、黒崎は記者会見室へ向かった。