2人のそれぞれの衝撃-1
【2人のそれぞれの衝撃】
大学の先輩の拓哉とは卒業してからも交際が続き、妊娠を機に結婚して11年が経つ。
一部上場企業に就職した拓哉は同期の中で一番早く課長に昇進した。
また、その時に授かった娘の春奈は小学5年生になっていた。その春奈も真面目で明るく成長し、その可愛い容姿は拓哉と響子の良いところを程よく受け継いでいた。
家族想いの拓哉は忙しい反面、時間が有れば春奈の相手をし、春奈もそんな拓哉に小さい頃から懐いていた。
誰もが羨む絵に描いたような幸せな家庭だったが、34歳の響子は近頃不満が溜まっていた。その不満の原因は、今住んでいる賃貸マンションの間取りに起因していた。
しかし、上場会社に勤める拓哉が転勤になったことを考えると、容易に転居もできなかった。幸か不幸か新婚当時から転勤の無いまま現在に至っていた。
ここ最近、引っ越しの話も時折出てくるが、転勤の時期の年度初めが来るまでしばらく様子をみることで、その話も毎回落ち着いていた。
問題の間取りはこうだ。
玄関から入って狭い廊下の右手に洗面所、浴室、トイレ等の水回り、左手には4畳の洋間があった。といっても、部屋の角と天井には鉄筋コンクリート造特有の柱と梁が出っ張っていて、実際の有効面積は到底4畳は無い。ここは元々洋服箪笥やその他諸々を置く納戸として使っていたが、春奈の小学校入学に伴い学習机を無理やり詰め込んでいた。
「ここがもう少し広かったら…」
2人を送り出した後、洋間を覗いて響子はつぶやいていた。和室でオナニーをする前だ。
廊下を進んだ突き当たりに、7畳のダイニングキッチンがあり、ここから先がこの一家の主な生活空間になっていた。
少し前まではこの狭い間取りでも不満を感じなかった。朝食の支度の最中に振り返ると、そこには愛する夫の拓哉が食卓に座り、朝刊に目を通していることが日常だ。
スマホのネットニュースでなくペーパーに拘るのは、サラリーマンとしての矜持だそうだ。響子はこの距離感にいつも安心感を覚えていた。
ダイニングキッチンを入った左手に二枚引き戸があり、普段から開けっ放しの向こう側は、ダイニングキッチンと並んで、南面をバルコニー窓に面した居間兼寝室の6畳の和室となっていた。
夜9時を過ぎるとここに布団を3組並べ、ごろごろとテレビを見ながら過ごし、そのまま家族3人が就寝していた。
以上の2DKの間取りが響子たちの生活空間だったが、新婚当初は余り不便も不満も感じていなかった。掃除の範囲も狭いから家事も手早くできるし、愛する夫の拓哉をいつも身近に感じることができるから、寂しがり屋の響子はその狭さに安堵を覚えていた。
しかし、その心地好い狭さを感じられたのは、春奈が小学生の高学年になるまでだった。
現在、春奈は小学5年生。背の高い拓哉のDNAの影響のためか春奈の成長は早く、日に日に狭い空間の中で存在感を増してきた。最近では胸も膨らんできて、春先に母娘でブラを買いにいったほどだった。
そろそろ部屋を与えなければならない年頃だったが、洋間には物が溢れていて、とても春奈が就寝できるスペースは無かった。その結果、高学年になったにも拘わらず、家族3人でこれまで通りに同じ部屋を寝室として過ごしていたのだ。
当然、夜の夫婦生活は春奈が眠る横ですることになった。グッスリと眠る低学年まではそれで良かった。しかし、成長とともに眠りも少し浅くなったようで、セックスの最中に春奈が寝返りを打つ頻度が高くなっていた。
それを気にした夫婦は、春奈が寝付いたのを確認すると、ダイニングキッチンのテーブルを端に寄せて布団を敷き、和室との間の引き戸を締めてから夜の行為に励むようになっていた。