【白日の彼方に】-3
追求するのは止めたが、それでも、俺の愛花が他の男にも抱かれているのかと思うと、言い様の出来ないムカムカしたモノが込み上げてきて、心臓が締め付けられるかのように胸のこの辺りがギュゥゥッと苦しくなる。
こんな感情、初めてだ。
愛花が、俺に抱かれている時のようなあんな顔をして、どこの誰とも知らん男の下で、あんな声を上げてるのかと思うと、俺は、俺はもう……。
もう、俺はダメなんだよ、愛花。
愛花――
お前は、違うのかな、愛花?
お前はあの時から、俺に抱かれ続けたこの一年、俺のことを、どう……。
「あー、また引っ掛かっちゃたわよ、もう!」
何度目かの信号機の点滅に、愛花が不満の声を上げた。怒っている筈の台詞なのに、怒ってるようには到底聞こえない可愛らしい声。ぷぅと頬を膨らませたその顔も、怒ってる顔というにはあまりにも可愛い。
お前は、なんて可愛いんだろう、愛花。
思わず、……手を伸ばして、触れたくなってしまう程に。
愛花。
そっと手を伸ばす。
「なっ……何?」
暖かく柔らかい頬に指先が触れた瞬間、電流が流れたかのように、愛花の身体がビクッと震えた。
可愛い。
「そうやって膨れてると、フグみたいだ」
大きな目を更に見開いて俺の顔を見上げている愛花に、そっと呟いてやる。
「なっ、何よ、それっ!」
俺の言葉を聞いた途端、ふっと愛花の緊張が解けたのが分かった。ぷいと首を振って俺の手から逃れ、シートにその身を沈ませる。
……。
あの時以来、親からも「あんた達喧嘩でもしたの?」と言われていたのが、近頃は「仲直りしたんだ」と言われる程、表面上は何もなかった以前のように振る舞えるようになった愛花だが、……俺の手は、未だに愛花を強張らせてしまう。
触れれば、あんなに感じて、濡れるくせに。
「!」
行き場の無くなった手を、愛花の膝に伸ばす。サラリと柔らかなスカートから伸びる、剥き出しの太股に触れた途端、愛花の身体が再び強張った。
柔らかくて少し冷たい太股に、軽く手を載せただけなのに、愛花は小さく息を飲む。
愛花。
お前は、やっぱり俺じゃダメなのか?
俺は、嫌か?
冷たかった素足が、徐々に温もりを帯びていく。俺はその手を、ゆっくりと太股の付け根へと滑らせた。
「おっ、お兄ちゃん……。ほら、前、ちょっと動いてるわよ」
身体を硬くしたまま、愛花が上ずった声を上げる。その声に、俺はブレーキを少しだけ緩めると車間距離を縮めた。顔は真っ直ぐ前を向いたまま、スカートの中に潜ませた左手を、更にその奥へと進めながら。
「お兄ちゃん。……何も、しないって言ったじゃない」
「そーだっけか?」
恨めしそうに呟く愛花に、そらとぼけてみせる。
けど、それは確かに言った。
確かに俺は、ドライブに誘った時に、二人っきりでどこかへ行く事に抵抗があると言う愛花に、「何もしないから」と言った。
それは覚えてる。
けど、――そんなの、無理だ。
手を伸ばしたい時には、手を伸ばしても良いだろう?
もう、俺はお前に対して、我慢することを止めたのだから。
「あっ……、おにぃちゃん……」
指先が、暖かく柔らかい深層部に触れたので、ソコを覆う薄い布切れを爪の先で擦ってやると、愛花が吐息を漏らしながら俺を呼んだ。
「なんだ?」
前を向いたまま、ゆっくりとソコを撫でながら返事をしてやる。
「……こんなとこで、嫌」
恥ずかしそうに身を捩る。