【白日の彼方に】-2
それでも、俺はあの時、愛花を犯した。
泣き叫んで、何度も止めてと懇願しても尚、俺は自分の欲望のままに愛花を組み敷き、逃れようと抗うのを押さえつけ、無理矢理に……思いを遂げたんだ。
しかも、到底許される行為ではないくせに、一度味を占めた愛花の身体を忘れられず、それから何度も何度も、一つ屋根の下に暮らす特権とばかりに愛花の部屋に押し入り、俺の気の済むまで愛花の身体を求め、愛花に俺を求めさせ、肉体的にも精神的にも、愛花を、俺の妹を、犯し続けたんだ。
狂ってる。
俺の行為を、一言で表すのは簡単だ。
もはや、あの時の俺の行為を後悔するとかしないとかの問題じゃないくらい、俺は今、愛花に溺れているんだから。他の誰でもなく、もう俺は俺の妹である愛花がいいんだから。
愛花――
お前は、違うのかな、愛花?
「少し進んでるわよ、お兄ちゃん」
「ああ」
窓の外を見ていた愛花が、俺の顔を突然見上げた。正面を向いたまま盗み見ていたつもりが、気付かない内にモロに愛花の方を向いていたらしい。振り返った愛花とまともに目があって、俺は慌ててアクセルを踏み込むと少しだけ広がった車間距離を縮めた。
シートに両手をついて身を乗り出すようにして前方の様子を伺っていた愛花が、ブレーキを踏んだ反動のようにトスンと深くその身を沈ませながら、「あんまり間を開けると、また横から割り込んでこられるわよ、お兄ちゃん」と言った。
ごもっとも。
初心者マークなんて恥ずかしいモンは付けていないんだが、それでもさっきから何度か強引に割り込まれている。乱暴な奴はどこにでもいるが、愛花はそれを俺の運転技術が未熟だからと思っていやがるらしい。
軽くムカツク。
「そーだな」
小さく溜息を吐きながら愛花を見ると、愛花は、俺の視線に何か言いかけた口を閉じた。
OK、良い子だ。
この状況への不満を俺への文句にすり替えられるのはたまらない。どこまで何を言われるか分かったモンじゃねぇからな。
それでなくとも、愛花は近頃、以前のように俺と喋るようになってきたのだから。
俺に犯された初めの頃は、俺がいる空間は出来るだけ避けようとして、親が一緒にいてさえも居間に寄りつくことをしなかったのに、今では俺一人でいても、あんな事はなかったかのようにくつろいで、テレビを見て喋りかけてきたりするようにもなったのだ。
愛花は変わった。今でも、俺は愛花を抱いて、犯しているというのに。
時がそうさせたのだとしたら喜ばしい限りなんだが、それだけでは無いような気がする。
考えたくは無いが、その一つが、……先輩だ。
愛花の入ってる美術部の部長をしているらしい、愛花の好きな先輩。どんな野郎かは詳しくは知らんが、愛花がバレンタインディにチョコをやるような相手だ、ろくな奴じゃないのは分かってる。
しかも、愛花はホワイトディにお返しまで貰ったらしい。何を貰ったんだと聞くと、アメを貰ったダケだと言った。その時はそれで納得をしたんだが、近頃、……それだけじゃなかったんじゃないかと、俺は踏んでいる。
たまに帰りの遅い日。愛花が部活で遅くなった日。帰ってきた愛花に俺が触れようとすると、何としてでも俺の手を逃れ、とりあえずシャワーを浴びたいからと風呂場に直行するのだ。
絶対、何かあったと思うべきだろう?てか、バレバレじゃねーかと思うんだが、愛花は何もないと言う。ただ、部活で絵を描いてて汚れたから、早く落としたいダケなんだと言うのだ。
そんなの嘘だ。拙い言い訳。愛花は、昔から俺と違って嘘は苦手に出来ている。
何やら無性に腹が立って、愛花の身体に聞いてやったこともあったが、何もないの一点張りだ。しかも、「先輩はお兄ちゃんと違うわよ。一緒にしないでよね」と来たもんだ。
何を夢見てやがる。男なんてみんな一緒だ、このお子ちゃまめ。とは思うが、確証はねぇ。
すぐにバレる嘘を吐くくせに、愛花はへんに頑固で困る。