A:1 -3
「にしても、お前は相変わらず拷問キチガイだな」
車を運転しながら、Bは隣で鼻歌を歌っている親友に、あんまりな言い方で会話を投げかけた。
「そのおかげで、お前さんの思う通りにことが進んでるんだろうが。キチガイとかいうな」
「拷問の所も否定しろや」
「ありゃ本当のことだからな、否定はできんさ。悲鳴を聞くたび心がわくわくしてくるねっ」
「人生を謳歌していらっしゃるようでなによりだ」
「お前さんみたいに面倒な性癖をしてるわけじゃないからな」
「そうかい」
最初に会話を振ったBが、最後に短く答えて会話は終了した。彼らの性癖は正反対であったが、正反対であるがゆえにお互い満足しえるものだということを、二人はよく理解していた。だから、互いの行為にはあまり口出しをしないばかりか、手伝ってやることもしばしばであった。
「明日は俺の番だな。今のところ順調だからな」
「心がわくわくしてくる? わくわくする?」
「気持ち悪いな、やめろや」
「自分の気持ちを解き放つんだっ!」
「おい。車外へ放り出すぞ」
「人殺し県議!」
「本当に死ぬか?」
「すんません」
性癖は正反対でありながら、彼らは似た者同士なのかもしれない。会話を交わすたびに口論に発展させながら、知り合ってから今まで、本物の喧嘩をしたことは一度もない。罵りあいながらも、彼らはお互いのいないところでは、迷いなく言うだろう。あいつは一番の親友です、と。ただ、結局のところ、二人とも救いようのないクズで、外道であることは違いないのだが。