〜 保健・性差 〜-1
〜 2番の保健 ・ 性差 〜
現代の環境は、旧世紀と比べて格段に過酷だといわれています。 水面が上昇し、陸地面積は西暦2000年代と比較して80%にまで減りました。 気温は温暖化により、北半球で平均3℃上昇しています。 オゾン層は西暦1600年代と比較して33%の厚さしかなく、石油資源は高純度のものを使い果たし、タール率ばかりが高いローオクタンなものに過ぎず、天然ガスも底をつきつつあります。 地上で天然水を飲料にできる区域は列島以外になく、海水をイオン交換膜で淡水化したものが、世界の平均的な飲料になりました。 地上の放射能影響は平均0.1(マイクロシーベルト/年)とピーク時より激減したものの、常時肌を露出するには辛い数値です。
このような現状だからこそ、優秀な集団が劣等な集団を指導しなければ、人類の『持続的成長=サステナビリティ』が成立しません。 即ち優秀な殿方に、私達は無条件で屈服し、追随し、調教され、指導していただかねばなりません。
ただ、私達が殿方に従う理由は、単に殿方だから無条件で従う、ではありません。 あくまで優秀な方だから、従うんです。 性は性、能力は能力として、分けて考えることが建前です。 実際は私達より能力が低い殿方なんているわけがないため、殿方であれば無条件に牝よりも偉いんですけど……ここら辺は現実と建前がごちゃまぜになって、難しいところです。
保健で扱うテーマが『性』になると、一時的に『殿方』と『私達』を平等に扱うことになります。 普段私達は自分を『メス』『牝』『♀』と称しますが、この単元では『女性』と称することが認められます。 また、殿方も便宜上『男性』とします。 言葉にするのも畏れ多い殿方がもつ聖殖器についても、『ペニス』という単語で表現することが認められます。 その他、普段使ってはいけない不遜な言い回しでも、特別に使うことが認められています。
ただ、そのせいで『殿方と牝が対等』という思い上がった認識をもつ生徒が出ると困りますよね。 個人的には、学園生活に染まった私達がそんなバカな発想に至るなんて、これっぽっちも考えられないです。 まあ、教官が危惧しているということは、過去にそういうバカな生徒がいたのかもしれませんが……。 私達は大丈夫だと思うんですけど、ともかくそんな風に間違った意識を持たないよう、教官が指示するとおり、授業に入る前に『牝性(ひんせい)の贖罪』を大声で唱和しました。 『牝性の贖罪』とは、私たちの原罪――生まれ持って備えている罪――を明らかにすることで、卑しくはしたない牝性を自覚し、恥ずかしく淫らな自分の本性を謝罪し、みっともなく賤しい存在であることを宣言する108つの項目です。
「「ひとぉつ! わたしたちはくっさいオマンコをおっぴろげて生きていまぁす!」」
「「ひとぉつ! わたしたちはぶさいくな肉団子を胸からぶらさげて生きていまぁす!」」
「「ひとぉつ! わたしたちは乳首をシコシコしただけでフル勃起しながら生きていまぁす!」」
台詞は保健の教科書の一番初めに載っています。 真っ先に私達が取り組んだのは『牝性の贖罪』を暗記し、感情を込めて斉唱することでした。
「「ひとぉつ! わたしたちは月に一回、くっさい大量の経血を垂らす、ノーマルでなくなる生き物でぇす!」」
「「ひとぉつ! わたしたちはズル剥けくりちんぽをしごき、オマン滓を生産しまぁす!」」
「「ひとぉつ! わたしたちはブリブリ音をたてて毎日うんちする、ウンチ製造機でぇす!」」
少しでも声が小さいと、8号教官は認めてくれません。 見せしめに数人のお尻を竹刀でひっぱたいて、何度でも復唱させられます。 一度でも声が不十分と判断すると、私たち喉が枯れるまで叫んだところで、ようやく次にゆくことを許してくれます。 普段は割と優しいのに、こと『牝性の贖罪』については、どの教官よりも声や姿勢に拘りがあるんじゃないでしょうか。
「「ひとぉつ! わたしたちは産む機械でありながら出産を忌避する愚を過去に犯した低能ですっ、申し訳ありません!」」
「「ひとぉつ! わたしたちは生殖能力を失っても恥じることなく生きてきましたっ、申し訳ありません!」」
「「ひとぉつ! わたしたちは人類文明が生み出したもっとも醜い存在である、BBAの卵ですっ、申し訳ありません!」」
後半は宣言に続いて謝罪を叫びます。 第1姿勢で直立し、胸をはって全裸で一斉に叫ぶ姿は、幼年学校の体育会系部活のシゴキを連想させますね。
「「ひとぉつ! わたしたちの職業の元祖はペニスにお情けを頂戴する淫売ですっ、申し訳ありません!」」
「「ひとぉつ! わたしたちは一夫多妻制を否定し、自然の摂理に背きましたっ、申し訳ありません!」」
「「ひとぉつ! わたしたちはフェミニズムに託(かこつ)けて、私達への特別配慮を要求し、不当に負荷が低い労働と不当に高い賞与を手にしていましたっ、申し訳ありません!」」
ひとぉつ! わたしたちは自分の私利私欲に基づき、肉体を金銭に替え、神聖な営みを貶めましたっ、申し訳ありません!」」
「「ひとぉつ! わたしたちは性が紊乱(びんらん)する下地をつくっておきながら、性的弱者として被害者面をして生きてきましたっ、申し訳ありません!」」
合計108つ。 連続して謝り続けるだけで最短でも10分はかかります。 ましてやり直しさせられようものなら、50分の授業のうち20分近くは『牝性の贖罪』が占めているでしょう。
最後に、
「「ひとぉつ! わたしたちは牝の本性を認め、いかなる躾けにも従いますっ、よろしくお願いします!」」
と、締めます。 教官が頷いて着席を許してくれる段には、全員が汗だくになって喉を枯らし、肩で息をするのが常でした。