枕営業-1
その日、北村建設の宮地義孝の接待が行われていた。当初は義孝と健太郎、そして大島陽菜の3人で接待が行われるはずであった。しかし健太郎に急用が出来、陽菜が1人で接待する事になった。
「相手はウチにとって大事な取引先だ。キャンセルする訳には行かないんだ。宮地さんは今日から取締役部長になった。将来は社長になるだろう。だから失礼な事は出来ないんだ。宮地部長はお前を気に入っているし、ゆくゆくはお前に担当を引き継ごうと思ってるんだ。社長にも相談している。だから悪いが今日、お前1人で行ってくれるか?大丈夫だよ。肉体関係を求められる事はない。奥さんがウチの会社にいる訳だからね。不倫なんかで近い将来の社長の椅子を失うような事をするほど宮地部長は馬鹿じゃない。いいか?頼んだぞ?」
「は、はい…」
陽菜も妻である紗英がいる会社の女に手を出す筈がないと思っている。初めから肉体関係を迫られる心配などしていなかった。それよりも自分がそんな大事な取引先のお偉い様への接待が務まるのかが心配であった。しかし成功すればいずれ担当させてくれると言う自分にとっはまたとない大きなチャンスでもある。最終的に陽菜は自分のステップアップの為に1人での接待を決心した。そして今、まさに義孝を接待している途中であった。
「本当に君は賢いな。丹野君が言っていた通りだ。次の担当は君しかいないと良く言ってるよ。」
「ありがとうございます。」
義孝は非常に紳士的であった。魅力的な男性だ。大企業の人間は違うな、そう感じていた。
「すみません、ちょっと…」
「ああ。」
はっきり言わなくても理解してくれる義孝に尊敬すら感じる。陽菜はトイレへ行った。トイレから戻ると電話をしていた義孝。仕事の電話をする男性の横顔は素敵に見える。酔ってきたせいかドキッとしてしまう。
「悪かったね。」
「いえ。」
再び仕事の話をしながら酒を飲む。酒が入り和やかになりいつものようにある程度緊張感を持ちながらする商談とはまた違った中で義孝と会話していた。
(何か…宮地部長さんて魅力的だな…)
ふとそう思ってしまった。その瞬間から、何故か陽菜の体に異変が起きていたのであった。