デビルサマナー ソウルハッカーズ外伝-3
「あっ…お、おはようございます」
慌てて寝顔を隠そうとする様が新鮮で、妙にドキドキしてしまう。
「あ、いや……それよりどうしてオレここで寝てたんだ?」
「覚えていらっしゃらないのですか?風呂彦様は昨日、カルティケーヤの召喚プログラム作成中に突然倒れられたのです。ヒトミ様なんて、取り乱してお医者様を呼ぼうとまでなされましたので、ヴィクトル様が緊急措置として空いていたこの部屋に運びこませたのです」
なるほど。言われてみればそんな事があったような気がするな。
ふと自分の体に目をやると、あちこちにあった傷が手当てされていた。
「これ…ひょっとしてメアリが?」
「…ハイ。……変で…しょうか?」
…まあ、偉い事になっているのは確かだな。オレの体には隙間もないほど包帯が巻かれていて、肌が見える方が圧倒的に少ない。しかも場所によってはギプス並に巻きつけられている部分まである。まあ、だからと言ってオレはそんな事を無神経に言うほどおたんこなすでは無いが。わざわざこうまでしてくれた親切は黙って受け入れようじゃないか。
「いや。これで多少の悪魔の攻撃は防げるよ」
「……そうですか」
…外したか。
「そ、そんなに無理したつもりは無かったんだが…。いや、参ったな、ははは……」
誤魔化そうと適当な事を言ったのだが…
「ははは、じゃありません!」
突然メアリが声を荒げた。オレはこんなに感情を剥き出しにした彼女を見たのは初めてだ。
うなだれたままで肩を震わせたまま、メアリは言葉を繋げる。
「風呂彦様の傷は軽いものでは無いんですよ!人間は…わたくしと違って死んでしまったらもう蘇れないと聞きました。もし、もし風呂彦様が死ぬ事になってしまったら…もう、逢えなくなる……そんなのって嫌です!!」
エプロンを握り締める握りこぶしの上に一滴、また一滴と水滴が落ちていく。その感覚がメアリの頭を冷やしたのか。
「あっ…も、申し訳ありません、身勝手な事ばかり言って…。ですが、わたくしも自分でどうして良いのか判らなくて…。ヴィクトル様はどこも悪くは無いと申しているのですが、風呂彦様のことを考えるとどうしてもこの辺りが…熱くなってしまうのです」
そう言ってメアリは自分の胸に手を当てる。
「メアリ…」
「昨夜もそうでした。貴方が死ぬかもしれない…そう思った瞬間に目の前が真っ暗になって、気付いたら目から水が止まらなくなって……わたくし、本当にどこかおかしくなってしまったんです!きっと……病気に違いないんです」
…可愛い。オレはその時素直にそう思った。そして、守ってやりたい…安心させてやりたい、そうも思った。
「メアリ…それは確かに病気だね」
オレのとんでもない台詞にメアリはやっぱりという顔をする。
「やはり…そうなんですね。わたくし…ヴィクトル様に診てもらって来ます!」
身を翻して部屋を出て行こうとする彼女の腕をオレは慌てて掴んだ。ここまできたらもう後には退けない。手の平にじっとりと汗が滲むのが自分でよく分かる。
「いや、その病気はオレじゃないと治せない」
オレの台詞にメアリは不思議そうに振り向く。
「…そうなんですか?」
「ああ。メアリは…治したいかい?」
しばし考え込み、メアリは答えた。
「…ハイ。この辛さを何とかできるなら…」
メアリの台詞を聞いて俺は大仰に頷く。
「ウム。まっかせなさい。それじゃ…まずはこちらを向いたまま、目を軽く瞑ってごらん。そうそう、そのまま…リラックスしたまま」
オレは愛らしい顎をそっとつまみ、軽く口を触れ合わせ、そして…舌を入れた。
「?!」
いったんは体を強張らせるが、抵抗する気配は無い。そのままオレは舌を送り込み、ぬるぬると粘膜を舐めまわす。静かにお互いの舌を絡め合わせ、やがて離れる。
「…どうだい?胸はまだ、苦しいかい?」
「………えっ?あっ、あの……」
目がとろんとしている。いきなりのディープキスは刺激が強すぎたようだ。
「胸は……苦しいというより…ドキドキして……」
本当に苦しそうだ。右手は力一杯胸元を握り締めていて、オレの目を節目がちに見返す瞳は潤んでいる。と、突然くるりと部屋を出ようとした。今度も何とかオレは彼女の腕を掴む事に成功した。