デビルサマナー ソウルハッカーズ外伝-2
Story 1
(データ メアリ)
ホテル業魔殿とか言う怪しさ全開なホテルで働くメイド。
恐らく人型決戦兵器に乗っていた青い髪の少女並みの無表情と、見る人全てを不安のズンドコに陥れる顔色の悪さがチャームポイント。そんなに無愛想でホントに客商売が勤まるのか?と思うのだが、それ以前に海上ホテルを船長とコックとメイドの3人で運営する事自体に無理があるので、近いうちに転職を迫られる事になると思われる。
「おはようございます、風呂彦様。よくお眠りになられましたか?」
物静かな、それでいて良く通る澄んだ声がオレを起こした。目を覚ましたのはホテル業魔殿の一室、サマナー専用のスイートルームだ。もっとも現在は、ほとんどオレ専用プライベートルームと化しているが。
オレはゆっくりとベッドの中で体を起こし、辺りに目をやった。その先には柔らかい陽光の中でいつものように静かに微笑んでいるメアリが居る。まるで…昨夜、激しく愛しあったことが嘘のようだ。
じっと見つめるオレの視線が気になったのか、それまで食事の準備をしていた手を休めてメアリが口を開いた。
「…いかがなさいましたか、風呂彦様。もしかして、わたくしの顔に何か付いていますか?」
「ん?ああ、そう言う訳じゃないよ。ただ、昔の事を思い出してね…」
「昔の…事、ですか?…そういえば一昨日、ヒトミ様が仰っていました。『メアリは随分変わったわ』と。わたくし…そんなに変わりましたか?」
ああ。確かに変わった………オレもそう思う。
初めて会ったときは本当に無口、無表情で、そして……どこか悲しそうに見えたものだ。何かを尋ねても一言二言本当に必要な事を話すだけで、恐らく可愛い女の子でなければ殴り倒していたに違いないほどとっつきにくかった。
だが、そこはこのオレ。悪魔との交渉(脅迫)で鍛えた奇跡の会話術で見事彼女の心をわしづかみにしていった。一週間、二週間と経つにつれマー○増毛法もびっくりの自然さで打ち解けていったのだ。依然として口数は少なく、表情の変化も乏しいままだったが、他の客に比べると目に見えて格段によく喋るようになった。何より、俺達が戦場から還ってきた時に見せる心底安堵した顔などは以前からは想像も付かない。
だが、しかしである。まだ彼女はオレに微笑んだ事がなかった。ある事件が起こるまでは…。
その事件が起こったのはいつもと同じく仲魔を合体させに立ち寄った時の事。ただ、違うのはその日に限って超強力な悪魔を屠った直後だった事。
オレはインテリなんで知力に絞った成長法をしていたのだが、それがまずかったらしい。こちらがワンパン入れるたびに奴は6発も入れてきやがった。仕方がないのでオレは仲魔を有効に(壁として)使った。オレの素晴らしい作戦の結果勝利を収めたが、仲魔達の尊い犠牲が生まれてしまった。やむなく新戦力を増強する必要に迫られた事から直行せざるをえなかったのである。
ところが不覚にもオレは合体させている最中に気絶してしまった。こんな事なら行きつけのタイ料理屋で体力を全快させておくべきだったが、他の飲食店がない町で生活してていい加減うんざりしていた時だったのだ。数日前に『もうオレはタイ料理を死んでも食わん!食うくらいなら漢らしく死を選ぶ!!』と決意したのだが、危うくいきなり実行してしまうところだった。
まあ、とにかくオレはやばかった。その上、当時オレはIDを抹消されていた。この天海市はモデル都市としてIDで全てを管理している。つまりこの町で生きていく以上IDを持たないものは死人同然という事になるのだ。その上オレはこの天海市に楯突くお尋ね者『スプーキーズ』の一員だったから、実家にも戻れない。
その辺を察してヴィクトルが気を利かせてくれたのだろう。翌日オレはホテル業魔殿の一室、そう後にオレの別荘同然になる部屋で目を覚ました。オレは当然驚いたが、それよりもっと仰天させたのが、ベッドにもたれて眠り込んでいるメアリその人であった。
昨日何があったのか?そして、どうしてメアリが?本来なら幼馴染のヒトミが居てくれそうなものだが(…いや、冷静に考えればキツイかな。悪魔ネミッサと合体した事で最近電波を受信して突飛な行動に出る事が多くなったし)……。
オレの動揺を他所にメアリがむっくりと起き上がった。錯覚か、頬に涙の流れた跡のような筋が見えたような…。