デビルサマナー ソウルハッカーズ外伝-10
服を着終えたオレたちは今さっきコトを終えたばかりのベッドに腰掛けていた。時刻からしてもうじき母が戻ってくる事だろう。オレはどうしてもその事が気になってしまう。
「………じゃあトモコ、もういい加減自分の部屋に戻れ。勉強しとかないと、母さんがうるさいぞ」
トモコは分かったと言って大人しく立ち上がった。そのまま部屋を出て行くかと思われたが、ドアに手を掛けたままで振り向いた。
「ね、お兄ちゃん……」
「ん?どした、トモコ?」
ちょっと躊躇していたが、すぐに口を開いた。
「悪魔に犯されてたときのあたし、どうだった?その…ぐっと、来た?」
オレはその時見た光景の事は誰にも話していない。そして、トモコは……悪魔に囚われていた人々はその時の事を一切記憶していない…はずだ。では、今の台詞は…?
「お兄ちゃん、あたしが何と言ってあの悪魔と契約したか、分かる?」
無論、知るわけがない。いや、それ以前にトモコがあの悪魔と契約していた…それ自体初耳だ。他の人々と同じく、無差別に襲われていた訳じゃなかったのか?
「あたしね、お兄ちゃんと…ずっと一緒にいたいって…ヒトミお姉ちゃんになんか取られたくないから、お兄ちゃんを独り占めしたいっ…そう、お願いしたんだよ」
「一緒に…お前、何を言ってんだ?」
オレがそう返すと、トモコは首をすくめて、ぺロッと舌を出した。
「なーんてね。本気にした、本気にした?お兄ちゃん、嘘に決まってんじゃなーい。冗談が分からないとヒトミお姉ちゃんにもいつか逃げられちゃうよん」
…いつもの生意気なトモコだ。少し安堵したオレは、いつものように掛け合いを始める。
「矮小な親切、莫大なお世話だ!ヒトミはこのすーぱーナイスガイ、風呂彦サマにめろめろなんじゃ―――!!」
「え―――――?」
「え―――――じゃない。ま、そんなわけだからオレの事はどーでも良いんだよ。それよりお前は自分のことでも心配したらどうだ?」
「何でよっ?」
「お前こそいい年して彼氏の一人や二人や十人くらい作ってみろよ。一人身じゃ淋しいだろ?」
「お兄ちゃん、それ多すぎ…」
「…ま、それは良いんだ。ともかく自分の方こそ何とかせえや。彼氏見つけるなり、受験勉強に励むなり、な」
「ぶぅ〜〜〜、それは言わないで、お兄ちゃん」
「人が気にしていることを言うからだ。その分だと悪魔にお願いしたのはそのどっちかだな?」
「…ううん、違うよ……」
「じゃなんだ?オレに教えてみー」
トモコの顔が一瞬曇る…が、すぐにあっかんベーをする。
「やーだよ。それぐらい自分で考えてよ、バカ!!」
捨て台詞を残しトモコは部屋を出て行った。
廊下に出たトモコ。扉を閉めた途端に暗く沈み、微かな声で呟いた。
「…鈍いんだから……あれじゃお兄ちゃん、あたしたち血が繋がってない事にも気付いてんないんだろうな。……お兄ちゃんの、バカ」
泣きながら部屋に戻るトモコは、居間の暗がりで一部始終を見ていたヒトミの存在に気付いていなかった。