接触する2人-3
一抹の不安はあるものの、一先ずは何事もなくホッとした紗英。しかしそんな紗英を待ち受けていたのは経理部長からの呼び出しであった。
「藤間君、今日の書類や計算などミスだらけだぞ?これは今日中に提出してもらわないと困るんだが?」
返された書類を渡され目を通して目を疑った。
(この書類…、私作ったっけ…??)
全く記憶がない。しかし節々に断片的に見覚えがある箇所も存在した。いかに仕事に身が入っていなかったかと言う事だ。
「す、すみません。すぐにやり直します!」
紗英は慌てて書類再作成に入った。さすがに不倫の事など頭から離れていた。ここからはいつにも増して集中して仕事に没頭した。
退社時間になり次々と紗英に声をかけて社員が帰って行く。仕事に集中しすぎてふと顔を上げると事務所内は静かになっていた。しかし微妙にパソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。振り返れば事務所に残るのは紗英と健太郎だけであった。紗英は再び不倫への不安を蘇らせた。
(まずは書類…、書類を完成させなきゃ…)
雑念を振り切り、とにかく書類を仕上げた。
「ふぅ〜、終わったぁ…」
既に時間は20時を回っていた。健太郎と2人だけの事務所…、普通ならこの時間は健太郎の指先にはしたない声を響かせているところである。紗英は書類をしまい、深呼吸してから立ち上がり健太郎の元へ歩み寄る。
こちらに向かってくる紗英をいつものような視線で見つめる健太郎。紗英が聞きたい事は分かりきっていた。
「あの…」
健太郎は紗英の言葉を待つ事なく言った。
「大丈夫だよ、気づかれてないよ。」
「え…」
何よりの言葉であった。色んな状況を考えれば決しては感づかれてはいけない事だと分かっていながらもやはり不安であった紗英を少しは安心させた。
「バレたら取引自体ヤバくなるからな。何が何でも秘密にしなきゃいけない事だからな。」
そう言って健太郎は立ち上がり、紗英を抱き寄せキスをする。
「んんん…」
いつもより激しい気がした。アグレッシブに絡んでくる舌に動きを合わせる紗英。またも理性が奪われそうになってしまう。