『Determined Miracle〜藍田咲子の長い一日〜』-2
「あそこまでして男落とせないって悲しいね。ようやるわ。」
時子は辛辣に批評した。
「相手が悪いよ。笹木だもん。」
私は半ば投げやりに呟いた。
笹木は少し……いや大分、天邪鬼なところがある男なのだ。
自分を好きな女の子を好きにはならなそうな雰囲気がある。
だからこそ私は告白もできず、この想いを抱えて、じっと見ているしかないのだ。
馬鹿みたいに。
「なんであんな男、好きになっちゃったんだろう。」
「でもあんな男だから、神埼瞳のフェロモン攻撃にも陥落せずにいるんでしょ?」
時子はポンポンと私の頭を撫でた。
私はちょっと明るい気分になったものの、また落ち込む。
あんなまでして落とせない男をどうやって落としたらいいんだろう。
私の気持ちは、何故かどんどん深まっていくのに。
きっと神崎さんにはなびかない、って信じてはいても、やっぱりあんな風に仲良さげにしているのを見ると、心配で、悲しくなるほど嫉妬してしまう。
ちらりと笹木を見ると、目が合ってしまった。
ここでニッコリと笑えるほどの余裕はない。
目を逸らしてから、後悔。
でもどうすればいいって言うの?
受験だって近いのに。
このままでは確実にヤバイ。
恋愛なんてしたくなかった。
始業のチャイムが冷たく鳴り響く。
※
お昼休みの後は、急遽自習になった。
11月にもなると自習も多くなる。
皆各々、自習室に行ったり、図書館に行ったりして勉強する。
うちの学校は進学校なのだ。
私も四階の第二図書館の奥に陣取った。
窓から学校の裏山が見える。
色づいた紅葉が美しい。
それに比べて自分の身の小ささ、腑甲斐なさが身に染みる。
手にした模試の結果は第一志望C、第二志望C、第三志望C、第四志望C、第五志望C。
「死にたい。」
具体的に死にたいわけじゃない。首を吊るのも、手首切るのも、睡眠薬がぶ飲みするのも、痛そうで怖いし、実際やるつもりはない。
けど、そう……とても死にたくなる。
いや、正確に言うなら『消えてなくなり』たくなるのだ。
この良く分からないプレッシャーと慢性的な睡眠不足からともかく解放されたい。
別に大学受験の一個や二個、失敗したって命がとられるわけではないのは知っている。
それでも、なんだろう……
とにかくよく分からない圧迫感に押し潰され、胃が痛くなる。