夕焼けの朝-1
俺は恋人に「愛してる」ということばを使ったことがなかった。「好き」という言葉ならたくさん使っていたが「愛してる」と「好き」は俺はまったく違うものだと思っている。俺にとって「愛してる」という言葉は特別だ。もちろん恋人達を愛していなかったわけではない。「愛している」と実感したときにしか使いたくない言葉なのだ。
中二の夏のことだ。
「明日はずっとふたりだね。」
「あぁ」
俺はけだるそうに相槌を打った。
最近じゃ話すこともなくなってきて、部屋に呼んでもなにをするわけでもなく二人でぐだぐだすごすだけだった。
好きじゃなくなったわけではない。
気持ちは付き合いはじめた頃となにもかわりはなかった。
ただなにかめんどくさくなってきてしまったのだ。
なにがそうなのか。
なぜそうなのか。
じぶんでもわからない。
しかしもう千尋と無邪気に笑い合うことはなかった。だがそれのいったいなにがいけないんだろうか。
千尋は俺を好きで、俺も千尋が好きだ。
ただそれで充分だった。
「じゃあまた明日ね。」
「あぁ。じゃあね」
千尋は変わってしまったこの状況をどう思ってるんだろうか。
変わってしまった俺をどう思ってるんだろうか。
次の日の朝
「おはよ!」 「おぅ。じゃああがれよ」 朝からふたりで大人買いしたマンガを読んだ。
千尋はベットに寝そべった。
俺はベットによっかかって。二時間くらい沈黙が流れた。
突然千尋が口を開いた
「おとといコクられたんだけど。」
「誰に?」
特に動揺はしなかった。
「部活の先輩。言ってもわかんないと思う。」
「俺たちが付き合ってんのしってんの?」
「うん」
それ以上聞く気になれなかった。
俺はベットにあがった。
千尋は何もいわずに俺の瞳をみていた。
俺は千尋に初めて口づけをした。
そのまま俺たちは愛し合った。
気付けば俺たちは寝ていた。
部屋は夕焼けのオレンジ。千尋はまだ寝ていた。
「愛してる」
一度口にだして呟いた。 心の中で何度も呟いた。
千尋が目を開けた。 「おはよう」
それ以来千尋とは会わなかった。
それが千尋と交わした最後の言葉だった。