ナデナデ-1
久しぶりの逢瀬。互いの時間を調整しあって、やっと実現する空間。会うたびに求める想いは強くなり。そして次の時を約束できないままの別れに、渇きは募り。ようやく再会を果たすと、必ず求め過ぎてしまう。密室で時を共有することしかできない関係は、肌を重ねることが唯一の癒し。重ねても重ねてもまだ足りず。終わらない、終りたくない時間を繰り返す・・。
あなたに触れ、喘がせ、のけぞる背中を抱きしめ、いっそう深くを求めてゆく。何度も何度も繰り返され過ぎて、もう、体がもたない、と訴えても、僕はやめようとしない。頂点の渦に何度も投げ込まれ、這い上がるたびに突き落とされ。部屋に満ちるのは、ただただ、濡れた音と切ない喘ぎ声、狂おしい熱と淫靡な香り・・
静かなまどろみが訪れるのは、満ち足りたからではなく、もはや限界を超え、互いに意識を手放さざるを得なくなるから。
こうして、再会の直後から互いを求め合い、まどろみの直前まで言葉の不要な時間をすごし、目が覚めるとあわただしい別れのとき。
ふと。あなたは思う。もっとゆっくりとした時間を過ごしたい。たとえば。満ち足りた体をベッドに並べ、中むつまじく語り合いながら、頭を撫でられながら眠りにつくとか。
ただただ体を貪られて互いの時間が終るなんて・・。その繰り返しなんて・・。
先回の逢瀬の最後にそう訴えたあなたは、僕の目に一瞬、寂しそうな影が横切るのを見て、少しだけ後悔する。でも次の瞬間、意地悪な色が取って代わり。それを隠すようにやさしい色に切り替えた目で、僕はあなたを見つめる。
「そっか。撫で撫でされながら眠りたいんだね。やさしい時間が欲しいんだ。」
立ったまま軽く抱きしめて、耳元に囁く。
「あなたが望む時間を、作ってあげる」
僕の体温を感じながら、あなたは僕の胸にほほを寄せる。頭に手が載せられるのを感じる。前後に動く手のひら。
「いつもがんばってるもんね。あなたの頑張り、僕は知ってるよ。偉いえらい」
そのまま僕の優しさに身を委ねていたくなるあなた。でも別れの時間はもうすぐ。ぎりぎりまでそうして頭を撫でられてから。身を離すと、僕はあなたの眼を見つめながら。
「次はそうしてあげる。あなたが眠るまで撫で撫で、しててあげる。」
いたずらっぽい目をして。
「これまでみたいに、何回いけるか、記録に挑戦!、みたいなのはしないから」
もう!と僕をぶつ真似をするあなたの手をつかんで引き寄せて、唇を重ねる。
「じゃあ、またメールするから。できるだけ早くまた、会おうね。あなたと会えない時間は、僕は死んでるんだ。僕が本当に生きられるのは、あなたと一緒にいる時間だけなんだよ」
そうしてさよならした前回の逢瀬。
そうしてやっと実現した今回の逢瀬。いつものカップルズホテルじゃない。駅から直接入れる高層ホテル。部屋に入ったら、抱きしめあってキスをして。それからルームサービスを頼んで。カーテンを開いて夜景を見ながら向き合ってお食事。メールや電話じゃなくて。顔を見つめながら、互いの近況を聞きあって。
「見た?あの、『インサイド・ヘッド』」
「ううん、まだ」
「すっごく良かったよ。人間にどうして“悲しみ”っていう感情が必要なのか、よおくわかる」
「そうなの?」
「そう。気持ちを思いやったり、挫折から立ち直ったりするために、どうしても“悲しみ”が必要なんだ」
「そっか」
「今度見てね。それで、また感想、教えて」
「うん」
「僕ね、あなたの感受性、大好きなんだ。僕には思いもつかなかったようなこと、思いついたり感じ取ったりするから。すごく刺激になる」
「・・それって、私が変わってるってこと?」
「ち、ちがうよ!すごく素敵だってこと」
「・・ほんとかなぁ」
「ほんと、ほんと」
「わぁ、心無い」
「心、あるって。・・ほら、ワイン、もっと飲んで・・」
なんて、おしゃべりしながら時間を過ごして。
食べ終わったら一緒にシャワーを浴びてベッドにもぐりこむ。
いつもより優しく体に触れられ、熱い吐息を繰り返すあなた。十分に潤った部分を情熱の塊でしっかり奥まで埋められて、あなたは僕にしがみつく。
「ずっとこうしていたい」
「わたしも」
「気持ちいいね」
「気持ちいい」
互いに想いを交し合いながらゆっくりと高まってゆく。二人同時にその時を迎え、抱きしめ合いながら、互いの律動を感じあう。それから二人ベッドに並んで横になり、僕はあなたの頭を撫でる。満ち足りた時間。優しさに満ちた時間が部屋に満ちる。そうしてあなたは安らかに眠りに落ちてゆく・・