光の第1章【マミの憂鬱】-1
光の第1章【マミの憂鬱】
ユウキ・マミは憂鬱だった。
「ふうぅ…」
今日も自分の属する部署に出勤する途中、ため息ばかりが口をついて出た。
18歳のマミは飛び級を重ね、この年に地球防衛連合に入所した新人だった。そのマミが籍を置く部署は、地球防衛連合の中でも、知る人ぞ知るトップクラスのエリート部署だった。
昨今、急速に現れた非地球上生物【星獣】による攻撃から、地球人類を守るために創設されたこの部署は、連合の中でも特に優秀な者が配属されるため、そこに籍を置く隊員は、それだけでエリートの証だと言えた。
エリート中のエリートの部署なのに、マミはこの部署への配属は不満だった。その不満を一番に感じるのは、指令室に掛かってくる通報や連絡をマミが取る瞬間だった。
新人のマミは、コールが鳴ったら、真っ先に受話器を取らなくてはならない。先輩女性隊員は、自分の下に新人の部下が入ってきたら、2度と電話を取ろうとはしなかった。これはこの部署の不文律だった。
ビー!ビー!ビー!
指令室に外部からの緊急通報が入った。この日、地球人類の存亡が掛かった重大な通報を、マミはいつものように、赤面しながら受け取った。
「は、はい、こちらは、マ、【マン…コ】です…」
そう、地球防衛連合の特殊部署の名称が【Monster Attack Neo Combat Organization
(モンスター・アタック・ネオ・コンバット・オーガニゼイション)】、直約すると、【怪獣を攻撃する新たなる戦闘機構】となり、通称【MANCO】と呼ばれていたのだ。
マミの受け答えを見ながら、隊長が好色そうな笑みを浮かべた。目の端でそれが見えたマミの頬が、ピクピクと痙攣をした。
(どうしてこんなエッチな名称が、設立時に通ったのよ…)
ある事情で、マミは父一人子一人の父子家庭で育った。それ故に父親ユウキ・ケンの教育方針は厳しく、マミには道徳心と貞操観念がしっかりと根付いて成長していた。
そんなマミだから、毎度の如くにやにや笑う隊長に殺意を覚える毎日だった。
日本では支障のあるこの名称が、問題にならなかったのは、創設時の日本代表メンバーが、少子化問題も兼任しており、人口拡大の糸口になればとの思いから、そのままこの名称をスルーしたことによる。
実際、若い女性隊員が、毎日毎日、恥ずかしがりながら、卑猥な4文字を連呼すれば、指令室の雰囲気も淫猥になる。
それを目の当たりにする男性隊員が、ムラムラするのも無理はない。その結果、強引に関係を迫り、見事出来ちゃった結婚した例も数多い。
「びちょびちょじゃないか。いつもコールに出る時に、ここを濡らしてたんだろ」
「いやああん、そんなことないよう、あああん、でもソコよソコ、もっと弄ってええ、もっと〜」
結局、指令室のトイレで犯されながら、自らも腰を振っていた女性隊員も、自身が口にした言葉で、ムラムラしていたようだ。
担当者の思惑による名称スルーは、少子化問題にちょっぴり貢献したことになった。
しかし、全般的に女性隊員が率先してコールに出たがることはない。それでも多少の例外もあった。マミの非番の時には、シラユリ・アズサ副隊長と、オマタ・カオル隊員は率先してコールに対応した。
その理由は、シラユリ副隊長は出身がウエスト地区の近畿州出身であることと、オマタ隊員は性格によるものだ。
地域教育を見直され始めたこの時代、特に方言復古の風潮の強い近畿州で育ったシラユリ副隊長は、馴染みの薄い【MANCO】の韻には抵抗はなく、それよりも近畿州の3文字が恥ずかしい。オマタ隊員は散々犯されたことでビッチ化し、単純に【MANCO】の韻を口にして、その部分を濡らすことに歓びを感じていたのだ。
さて、近畿州出身でもなく、ビッチでもないマミは、この日も顔を真っ赤にしながらコールに出た。その恥ずかしがる様子を、男性隊員はニヤニヤしながら見守っていた。
その指令室に籠るその淫猥な雰囲気が、マミの叫びに似た甲高い声で一蹴された。
「緊急警報!イースト地区○○州○○市に星獣が現れました。出動レベルはSランクです。出動可能な全【MANCO】隊員は直ちに出動して下さい」
そう言ったマミ自身も、受話器を置くと、隊員たちでごった返す戦闘機格納庫に走った。