初デート-3
「あの・・・私も葵君の事、正直気になっているのは確かなの。
でもね、私・・・あの夜、彼氏と別れた日だったの。
私ね、彼と結婚したかった。もう27歳だし、子どもも欲しい、
家庭を築きたいの。・・・だから、ごめんなさい。あなたとは付き合えないと思う。」
葵は奈々子から目を逸らさずに、彼女の言葉を聞いていた。
「あなたの初体験をこんな形で奪っちゃったのは、本当に申し訳ないと思ってる。でも・・・でも私は・・今はどうしていいのかわからない。」
奈々子は堪らず、葵の前でまた泣き出してしまった。
しかしそんな奈々子を葵君は抱きしめた。
彼の引き締まった腕が、奈々子を包み込む。
「泣かないでよ、奈々子さん。」
なぜか奈々子は彼の前では、感情を押し殺すことが出来ないでいた。
人前で泣くなんてしたことないのに。
幸雄の前でさえ、泣いた事なんてなかったのに。
「俺さ、待つよ。奈々子さんが心の整理できるまで。」
「え?」
葵は奈々子をそっと離すと、笑顔で言った。
「ねえ、これからどっか一緒に行こうよ。」
「・・・どこ に?」
「どこでも。近所の公園でもいいし、遠くのカフェでもいいし。」
「家に籠ってたら、体によくないよ。それに、今日は珍しく一日中晴れだってさ。」
そうして葵は奈々子の返事を待たずに強引に手を引いて、
彼女を家から連れ出した。