救ったのではなく、掬い上げたのです-1
かずみさんは僕の前で、タバコに火をつけた。
「タバコはダメでしょ。」僕は言った。かずみさんのお腹は、臨月のふくらみを描いているのだ。
「いいのよ。」かずみさんは鼻から煙を吹いた。
「こんな事で弱るようなガキなら、産まれて来なければいい。」
かずみさんはずっと僕と一緒だった女性だった。でも、かずみさんが婚約者に選んだのは、僕の知らない、短い間に深い関係になった男だった。
だけどその男は、かずみさんがはっきりと妊婦の姿になったころ、突然別の女を選んで去っていった。権力のある家系の人物だったとかで、むやみに騒ぐと、かずみさんの方が不利になるおそれがあったらしい。
「なんで、あんな奴に目がくらんだのかしら。」
かずみさんは灰皿に吸いかけのタバコがあるのに、次のタバコに火をつけた。
「今さらキミに会える立場でもないのに…キミと一緒になってれば、こんなガキ、孕みはしなかったのに。」
灰皿には二本のタバコが、灰を長く伸ばしていた。
「だから私…」かずみさんはボールペンでお腹をグイッとつついた。
「このガキが産まれたら、虐げてやるの。ささいな失敗でもムチ打ちの刑にしてやるの。このガキが私に『許して!許して!』って泣いてあやまるような毎日にしてやるの…」
「うるさい!」僕はかずみさんを床につきころがした。
「勝手に他の男とつながって、その男と失敗したら子どもに矛先向けるなんて…僕がずっと好きなかずみさんは、そんな女の人だったの?
かずみさんが、自分で虐げるような子どもを産むくらいなら、僕がその子を奪ってやる!」
僕はかずみさんの服を破くようにはぎ取った。初めて見たかずみさんの裸は、他の男性の子どもを宿した身体だった。しかし、濃く肥大化した乳首も、不規則な曲線が刻まれた下腹も、僕にとって舌を這わせずにはいられない、大好きなかずみさんの身体だった。
僕はかずみさんの「赤ちゃんの出口」に触れた。かずみさんは目を見開き、空を見つめている。だけど僕が出口をさすると、あっという間に潤んだのだ。僕はかずみさんを犯すことにした。犯して腹の奥の赤ちゃんを奪うことにしたのだ。僕は邪悪に勃起した股間の肉棒を、容赦なくかずみさんの出口にぶち込んだ。ぶち込んだ瞬間、かずみさんの腹の奥から何かが伝わってきた。それは胎児の響きだった。
僕はその胎児の響きの中で、別の感情が現れてきた。その感情は僕に射精の快感をうながした。僕はこう叫びながらかずみさんの胎内に精液を注ぎいれた。
「この赤ちゃんを…僕の子にしてやる!」
◎
それから三年が過ぎた。公園の午後、僕と妻のかずみさんのそばで、男の子が走り回ってる。男の子は草の中から飛び出してきた小さなバッタに驚いて、僕のそばに駆け寄ってきた。そんな男の子を笑顔で迎えるかずみさんのお腹は…立派に孕んでいた。
男の子を抱っこして僕はかずみさんに言った。
「そろそろだね。」
かずみさんはお腹をなでて、
「毎日同じこと言うんだから。」と笑った。そして続けて言った。
「あなたの二人目の子だからね。」
僕が、
「そうだね。二人目だね。」と言うとかずみさんは、
「たぶんキミが考えてることは違うわ。」と言った。
「この子は、キミの子になって産まれて来たのよ。さわってみればわかるけど、耳のかたちが、キミと全く同じなのよ。」
…おわり…