愛しい人-16
彼女がぎゅうと、ラウルの手を握って見つめているのに、
彼はティアラの方を見なかった。
「さあ、どういう事かしら?話してくださる?」
ラウルはお妃様の方をまっすぐ向いた。
「俺は盗賊です。人も殺しました。だから俺がいるべき場所は牢獄です。」
「あなた、ティアラの思い人じゃなくて?」
「彼女が思っているのは、昔の俺です。盗賊になる前の俺の事しか、
彼女は知りません。」
「それはどういう意味なのかしら・・・?」
ティエラが溜まらず口をはさむ。
「お姉さま!!ラウルは好きで盗賊になったんじゃないの。
記憶を失った時に盗賊に拾われたから、彼は盗賊になるしかなかったのです。
それに、私たちの国を襲った彼らの仲間じゃありません。
どうにか見逃してもらえないでしょうか・・・お姉さま、どうかお願いします!!!」
「・・・ラウルと言ったわね。あなた、どうして自らを盗賊だって名乗ったのかしら?」
「―――ティアラを愛しているから。」
ラウルが初めて彼の気持ちを口にした。
愛してくれると言ってくれた。
ティアラは天にも昇る気持ちなのに、こんな状況では喜べない。
「俺は罪を償う。償ってからティアラを迎えに来たい。」
妃はしばらく考えた。
「・・・今の話、なかったことにして頂戴。」
「え?」
ティアラと彼女の母が同時に声を上げる。
「私は何も聞かなかった。だからこの男が盗賊だって知らない。」
彼女たちは顔を見合わす。
妃はラウルを見て言った。