『カジ』前編-1
ず〜っとずっと遥かな昔、人が生まれ少しだけ文明が発達した、人が生きると言うことに少しだけ余裕を持てるようになった頃のお話。
人里離れた山間にある小さな寒村のそのまた外れの小さな家に、一人の魔法使いが住んでいました。
魔法使いといっても別に世界制服なんて考えは全くなく、普通の人となんら変わりがない生活を送っていました。
村の人からも、不思議な事がちょっと出来る変な人としか思われていません。
魔法使いの名前は『カジ』
日がな本を読んでは趣味の実験をし、たまにくる村人からの頼みごとを聞く暇人な魔法使いです。
そんな暇人魔法使い『カジ』の家に、いつものように二人の兄妹がやって来るところからこの話は始まります。
「カジーいるんだろー!!」
「ろー」
生意気盛りな少年とまだ舌っ足らずな少年の妹が、村外れにある小さな家の扉をこれでもか!!というほど叩きまくり、いるはずであろうその家の主の名前を叫んでいた。
「カージー!!」
「じー!!」
もうすぐ100ヒットカウントが出るんじゃなかろうか、と少年が思い始めた頃、扉が勢い良く開き
「じゃかしゃ〜!!毎日毎日人んちのドアをバカスカ叩くんじゃないわい!!」
赤い髪に蒼い瞳の青年が兄妹に叫んだ。
「おぉ!!昨日より出てくるのが早い!!」
「早いー」
こいつら・・・全く反省してねぇな・・・
「とりあえず、おっはよ〜!!」
「はよ〜」
その証拠に笑顔で挨拶しやがるし・・・
とりあえずため息をひとつついて
「・・・おはよう。ラジ、ルキ」
と、顔を上げると少年と妹の姿はなく。
カジが家のなかを見ると兄妹がテーブルに座ってカジのお茶を飲み始めていた。
「いつもいつも良く飽きもせず俺んち来て茶ぁ飲むのな。お前ら」
近くにあった椅子を引き寄せるとドカッと腰かけた。
「だって家じゃ姉ちゃんが砂糖入れすぎると怒るし」
「しー」
そう言いながらワッサワッサと砂糖をお茶に入れ、かき混ぜる。
「俺んとこならいいのかよ・・・ってそんな入れてお茶の味するのかよ・・・」
ズルズルとお行儀悪くお茶を飲む二人に文句をいいながらも、お茶菓子をテーブルに置く。
「で、今日はなに用?」
「あ、そうそう。村長がこのまま雨が降らなかったらまた頼むかもだって。後、棟梁が風車の設計図の図面引いてってさ」
「むぁー」
お茶菓子を砂糖茶で流し込みながら用件を伝えるラジ。
因みにルキはお茶菓子でハムスター状態になっている。
「あー・・・設計図は前に引いたのがあったけど雨か〜」
窓から外を見ながら眉を潜めた。
「ケチだな〜、前みたいにちょいちょいって降らせればいいじゃんさ〜。カジ、腐っても『魔法使い』なんだろー?」
腐ってもは余計だ。とラジを軽くこづきながら新しく煎れたお茶を口に含む。
「確かに魔法使えばちょっとの雨くらい降らせることも出来なくもないが・・・」
出来なくもない、出来なくもないが、んー・・・と腕を組み首を捻ってしまう。
「なんで使わないのさ魔法〜」
「まほ〜」
ヤンヤヤンヤと騒ぎ立てるラジルキ兄妹。