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『カジ』
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『カジ』前編-3

「今年の水不足はそんなに深刻なのか?」
「う〜ん、飲み水分は確保出来たんだけど、農作物用のが全然足りないみたい。でも街の方じゃ飲み水も足りてないみたいだからここはまだいい方かな」
「そうか・・・」
レイチェルはこう言っているが飲み水だけあって食べ物が足りない、と言うことだ。
実際街となんら変わりのない状態なのである。
「・・・」
「そういえば」
真面目な顔で考えこむカジにレイチェルが話し掛ける。
「ん?」
「そういえば、貴方がこの村に来たのもこんな雨が降らない年だったわね」
「そういえばそうだったな」

数年前にもこのような雨が降らず水不足が深刻だった頃、傷を負い村の外れに倒れていたカジをレイチェルが見つけ看病したのだ。
「あの後お礼に雨を降らしてくれたのよね。貴方」
そして村人から感謝され村の外れに家を作ってくれたのだ。
「未だに昔の事は話してくれないけど、貴方の事は村の仲間だと思ってるわ。村のみんなもね」
その言葉に胸の奥がこそばゆくなる。だがそれを気付かれるのも酌なのでカジはわざと横を向いた。
「ふん・・・昔の話は嫌いなだけだ」
「知ってる♪」
そんなカジの心中を知っているかのように再度、笑顔を浮かべる。
そんな笑顔にますます耐えられなくなったのか遂には後ろを向いてしまう。
「それよりも時間、大丈夫なのか?村の手伝いがあるんだろ」
その言葉にハッと椅子から立ち上がる。
「そうだった!!じゃあカジ、またね」
そう言い出口に立つと思い出したように振り返った。
「カジ、たまにはご飯食べにきなさいよ。豪勢、とまではいかないけど腕によりをかけて作るからね。じゃ!!」
急げ急げ、と言いながら駆けて行くレイチェルの後ろ姿を見ながらカジがやれやれとため息をついた。
「まったく・・・昔から変わんねぇな、レイチェルは」
残ったお茶を飲み干すと一息つく。
「・・・昔か、言えるわけねぇだろ。『魔法使い』だから街を追われました。なんて」
そう呟くと悲しげな表情で軽く笑った。
自嘲である。
それは魔法使い=悪、という観念をレイチェルに知られるのを恐れている事に対してなのか
孤独だった男がいつの間にか孤独を恐れるようになっていたことに対するものなのか
それは本人にも分からない。
だが確実に『人』として生きたいと思うようになっている自分を感じていた。


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