『カジ』前編-2
「あのな〜魔法使いでも人間でも出来ることは自分でやる。魔法は、どうしてもって時の切札的なものだ」
珍しく良いこと言ったぞ俺、と考えていたのもつかの間
「やっぱただケチなだけじゃん」
「じゃん」
こいつらに難しい話はまだ早かったか・・・
「ケ〜チ、ケ〜チ」
「ケチ〜」
ケチケチコールを背中に浴びながらガックリと肩を落とす。
「まぁ・・・いいや。飲み水確保が難しくなったら降らすからそう伝えといてくれ」
「了〜解」
「か〜い」
お茶とお菓子を食べながら生返事を返す二人。
本当にわかってるんだろうか?
と、少し不安に思っていると不意に家の扉が叩かれた。
ラジルキ兄妹のような連撃ではなく、ちゃんとしたノックだ。
「カジ〜いる〜?」
「開いてるよ〜」
なんか疲れたカジが椅子にもたれかかりながら返事をするとドアを開け一人の女性が入ってきた。
長い金髪が特徴的な美人さんだ。
「げ!!『レイチェル』姉ちゃん!!」
「ちゃん!!」
レイチェルに駆け寄り抱きつくルキとは対照的に、まずい!!という表情を浮かべるラジ
「脱出!!」
開け広げられている窓から逃げ出そうとラジが飛ぶ。
だが
「『対象窓、閉鎖、施錠』」
そう言いながらカジがパチ、パチ、と二回指を鳴らし
「『発動』」
パチンッと三回目の指を鳴らすと同時に窓が閉まり、ラジの顔面にめり込んだ。
「うじゅ〜・・・」
ズルズルと窓からずり落ちるラジの首ねっこをレイチェルが掴んだ。
「私から逃げようなんていい度胸してるじゃない?ラジ」
顔を近付けラジを睨む。
「あ、いや。その〜・・・」
蛇に睨まれた蛙状態のラジが視線を泳がせる。
「罰として今日はおやつ抜き」
「え〜!!」
ガックリと気の毒なほどに落胆すると、うらめしそうな視線をカジに向けた。
「魔法は切札じゃなかったのかよ!!」
「聞こえませ〜ん」
ラジの苦情を両耳を塞ぎ、しらをきる。
「き〜!!なにさ!!人でなし!!」
首ねっこを掴まれたまま暴れるが、距離の関係であとちょっとのところで届かない。
「へへ〜ん。バーカバーカ」
「キー!!」
子供二人のケンカである。
「はいはいラジ、おやつあげるから暴れないの。カジも子供みたいな事しない」
ジタバタ暴れるラジとラジの両頬を引っ張るカジをレイチェルが引き離した。
「マジで!?姉ちゃん大好き!!」
レイチェルに抱きつく。
「現金な子ねぇ・・・いいからルキと外で遊んできなさい」
「わかった〜。ルキ、行くぞ」
「はーい」
そう言い残しドタバタと外へ駆けて行った。
「で、なに用?レイチェル」
椅子に腰掛け肘をつく。
「あぁそうそう。はい、いつもいつもあの子達が迷惑をかけるお詫びとこれからもかける迷惑分のパン」
そう言いながら籠いっぱいのパンをテーブルに乗せる。
「あ〜・・・別にいいのに、あんま蓄えないんだろ?」
「いいのいいの。お世話になってるんだから」
ニコニコ笑いながらカジの向かい側に座っているレイチェルが言う。
「・・・」
正直カジはレイチェルのこの笑顔がどうも苦手だった。この笑顔でものを言われると断れないのだ。
「・・・ありがたく頂きます」
「はい。いただいちゃってください」
笑顔のままパンをカジ側に押すレイチェル。
そんなレイチェルの笑顔から逃れるべく新しいお茶を二人分煎れるカジ。