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二十歳の約束
【幼馴染 官能小説】

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2-1

 先輩はあっさりと他の女の子の存在を認めた。悪びれる様子もなく、ほんとうにあっさりと。

 バーのバイト前、先輩はワックスで整えた髪を気にしながら言った。

「できれば那月にはバレずに付き合っていたいと思ってたんだけどなぁ。那月は頭がかたくて真面目だから、セフレとか遊び用の子とかそういうのがいる男ってイヤ派でしょ? 那月の身体を手放すのは惜しい。でも俺、来る者拒まない派だからこれからもセフレとかいなくなることはないよ。──そりゃあ、那月のことはもちろん好きだよ。いい身体してるしね。俺、自分から付き合ってって言うこと少ないんだぜ?」

 下衆の極みだ。先輩の笑った顔を見たときにそう思った。
 こんなひとに、わたしはどうして憧れていたのだろう。

 わたしは先輩に別れたいと告げた。
 先輩はどうしても?と何度も聞いてきた。那月とセックスできなくなるのは残念だなぁと言いながら、先輩はわたしといっしょにみた映画や先日行った遊園地の話をした。別れたらもういっしょには出かけられないね、と。

 わたしは黙って首を横に振った。
 先輩はアイスコーヒーをひとくち飲んでから、まぁしかたないねと肩をすくめて言った。

「この写メってさ、那月が撮ったわけじゃないよね。余計なことしてくれるお節介なやつがいたもんだ」

 わたしはムッとしたものの、何も言わずに先輩の目を見て言った。

「今までありがとうございました。楽しかったです」
「まぁいつでも連絡してきてよ。那月の身体ってさぁ、超エロいから俺と別れたら我慢できなくなるんじゃないの? 俺はいつでも待ってるからさ」

 先輩がバイトの時間だからとカフェを出てからも、先輩のその言葉が頭の中にこびりついて離れなかった。

 賑やかな店内。氷がとけて薄くなったアイスコーヒーを見つめながらため息をつくわたしを、気にするひとはひとりもいない。

 グラスについた水滴を指でぬぐう。
 まるで誰かの涙をぬぐっているみたいだった。

 先輩の言う“好き”は、きっとわたしが思うような“好き”とは違う。
 でも──。
 わたしも先輩のことをほんとうに“好き”だったのかどうか、今となっては自信がない。
 かっこよくてモテる憧れの先輩に付き合ってほしいと言われて、有頂天になっていただけなのかもしれない。

 スマートフォンが鞄の中で鈍い音をたてた。
 マナブからだ。ジムが終わったからこれから会えるという内容のメール。

 わたしはアイスコーヒーをひとくちだけ飲んで席を立った。






「ごめんね、ありがとう」
「構わんよ。先輩とは話せた?」

 昨日のあの公園。鉄棒に寄りかかりながら、わたしは先輩と話した内容をぽつりぽつりとマナブに伝えた。

 マナブは何も言わずに最後まで聞き、昨日と同じようにわたしの頭をぽんぽんと撫でた。
 昨日と同じ香水が香った。

「わたし、自分でも何やってんだろって思う。先輩がわたしなんか好きになるわけないし、わたしだって先輩に憧れていただけで心から好きだってわけじゃなかった……」

 マナブがわたしの髪をくしゃくしゃと乱しながら、馬鹿だなと言った。

「あんな男に那月はもったいない。別れてくれてよかったよ」
「わたしなんて……」
「馬鹿。わたしなんて、なんて言うなよ」


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