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二十歳の約束
【幼馴染 官能小説】

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2-2

 マナブの怒ったような優しい声が降ってくる。
 いつだってそうだった。わたしが失恋して落ち込むたび、マナブはわたしをこうして励ましてくれた。わたしのすべてを肯定して、たくさんの優しい言葉で──。

「ありがとう。そう言えば、今日みんなは?」
「今日は祖父祖母孝行だな。みんなで動物園に行った」
「マナブは行かなかったの?」
「暑いのに行かないよ」
「マナブって昔からそうだよね。ほら、覚えてる? 小さい頃、マナブたち家族とわたしの家族みんなでシロクマの赤ちゃんを見に動物園に行くことになってたときのこと」
「あぁ、覚えてる」

 マナブがくすっと笑って言った。俺、あのときも暑いから行かないってひとりだけ行かなかったんだよな、と。

 マナブは寒い日より格段に暑い日に弱かった。焼けると赤くなって腫れる肌もそのまま黒くなるわたしとは違って弱く、よく熱を出していた。

「懐かしい。わたしあの日、涼子お姉ちゃんを独占して舞い上がってた」
「ひでぇな。俺のことなんか全然考えなかったのかよ」
「でもお土産にシロクマのぬいぐるみを買ってプレゼントしたじゃない?」
「あれね、まだ俺の部屋に飾ってある」
「ほんとに? 嬉しいなあー。涼子お姉ちゃんと選んだのよ。ほんと、懐かしい」
「うん、懐かしい。いろんなところへ行ったよな」

 マナブが優しい声で言った。
 あの頃とは違った、低くて心地よく響く声で。

「嫌がるマナブを引っ張ってプールに行くのが夏休みの恒例だったよね」
「そうそう。マジでだるかった。写真もいっぱい撮ってたよな」
「うんうん、マナブのお父さんが一番張り切って撮ってくれてたよね」
「同じようなやつばっかり何枚もな。アルバム、見にくる? 今から」
「見たい!」

 わたしたちは溢れ出てくる思い出話をしながらマナブの家へ向かった。
 涼子お姉ちゃんのピアノの発表会の日のこと、まるで三人きょうだいのようにおそろいの柄の服を着て出かけた日のこと、家の前でした花火のこと、横断歩道の白いところだけを踏んで渡る遊びのこと……。

 わたしたちはいっしょに成長していった。晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日も。
 真新しい制服を着て、ランドセルを背負っていっしょに登校したあの日、あのとき。マナブが隣にいるのが当たり前だった。

 初めてできた彼氏の話を一番最初にしたのもマナブだった。愚痴も相談も、いつもマナブに聞いてもらってた。
 マナブはいつもわたしのみかただった。



「やだ、これマナブってばわたしより可愛く写ってるー」
「那月のほうが可愛いって。ははは」
「絶対それ本気で思ってないでしょ」

 アルバムをめくる。マナブとわたしはそのたびに声をあげた。
 そのとき一瞬一瞬のわたしたちが四角く切り取られている。笑顔も泣き顔も、照れたようなはにかみ顔も。

「那月の誕生日会をした日の写真。この日の夜にした二十歳の約束、覚えてる?」
「二十歳の約束──」
「俺の中では今も継続中なんだけど」

 マナブがわたしを見る。
 わたしもゆっくりと顔をあげてマナブを見た。


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