〜 社会・政経 〜-3
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統一憲法のもと、社会には明確なヒエラルキーが形成された。 古代の『カースト』と相似した部分もあるが、『カースト』が先天的な一方、現代のヒエラルキーは後天的といえる。 教育と優秀さの判定によるヒエラルキーのような様々なシステムを教えることもまた、『政経』の大切な役割だ。
全存在は優秀かそうでないかを問わず、義務教育として『幼年学校』を卒業する。 ここで進路は大きく分かれる。
もっとも優秀かつ一定水準を超えた生徒は『師範学校』へ進む。 師範学校を卒業した時点で『科挙』と呼ばれる適性試験を受け、合格したものは自由に進路を選ぶことができる。 不合格になったものは『官吏』として各役所の長または次官に就任する。 そこから先は業績次第で栄転もするし、或は左遷もあるのだが、基本的に自分の適性を自分で判断して身を処することになる。
幼年学校の成績が不十分だったもの――卒業生の99%以上にあたる――は、職業選択を見据えた進路をとる。 専門性を要する職業――工員、整備、機械操作、助手、情報、看護、調剤etc――には専門学校がある。 無事に専門学校で履修単位を充足すると、晴れて『Dランク』の階級に属し、職業に就くことができる。 Dランクは組織の最下等部で、上級階級の手足となって働く。 専門性を要しない職業――サービス業、公務員、行員、警察、消防、軍部、芸能etc――は、養成所に入所する。 養成所で規定の年数の修養をつめば、こちらも『Dランク』として職業を認められる。
専門学校及び養成所で中途退学したものは『Eランク』に分類される。 人工子宮が実用化した現在においても、天然の子宮には一定の需要がある。 知能が劣等といっても、体力や容貌、肌理(きめ)や素材、乳腺などの外分泌やホルモンなどの内分泌能に優れている場合もある。 ヒトとしての活用が望めなくとも、社会で活躍する道はたくさんある。 ということで、Eランクに分類された存在は、素体ないし家畜、或は産業部品として有効活用されることになる。
ここからは我々が修練する『学園』に関する位置づけだ。
幼年学校でそれなりに良好な成績を修めた生徒は『学園』に入学する。 この学園を無事に卒業すれば『Bランク』、自主退学すれば『Cランク』に属する。 Cランクになると、各専門学校・養成所の『管理職養成コース』に入学となり、Dランクを使役する立場になるべく教育を受ける。 B級になったものは、『学院』への進学あるいは各専門学校・養成所の『幹部養成コース』を選択する。 『学院』は個別の嗜好に応えるため、より専門性が高い教育を修める場所で、『幹部養成コース』は各種設備の長になるべく教育をうける。 どちらにしても牝にとってはエリート中のエリートへの道だ。 ちなみに私たち学園の教員は、教員専門学校の『管理職養成コース』の出身が大半を占めている。
『学院』に進学し、社会通念上の優秀を認められた人物に『特別に選ばれた』存在は、実際の能力を問わず『準優秀』と認定される。 これが『A級』で、世界中央都市での生活を認められる。 確率としては10万分の1に達するかどうかの狭き門だが、可能性はゼロではない。
職場は基本的に長幼の序などなく、能力如何によって上下関係が生まれる。 能力の判定は上位階級が行うため、上位階級はすべからく下位階級に対して権力をもつ。 その程度は現場の『細則』で決められている。 ただ『細則』は古代ローマ法式の『上書き方式の立法』を取り入れており、現場の『優秀と認められた人物』によって変更できる。 ゆえに『細則』の程度は現場ごとに千差万別の様相を呈する。 一般的には『階級が2つ違えば世界が違う』と称されるほど、階級による権力は絶大なため、この世界で寿命をまっとうしたいならば、より上位の階級に属す他ない。
他にも『妊娠・出産システム』や『交通システム』、『環境整備システム』など、現代経済に密接したシステムの種類を挙げれば枚挙に暇がない。 教えることが多いからこそ『政経』の講義にも『地理』同様に8週間が与えられている。