佐々木洋子の場合 1-3
「今日もしてしまったわね」そう呟きながら今日も盗んできたものを眺める洋子。今ではすっかり罪悪感は消えてしまい、高揚感のみが洋子を支配していた。
初めて、盗んだ時の様な罪悪感はなくなり、連日学校の帰りに盗みを繰り返すようになり、今では盗むことが当たり前のようになり、悪いことをしているという実感はなくなっていた。むしろ、ばれなければそれでいいとさえ思うようになり始めていたのだった。
「ただいまー」と洋子は家に帰ってきたが、母親はおらず机の上に「用事で出かけます。帰りは遅くなるから先に食べててください。」との手紙が机の上にあった。ふと、その手紙の横には父親がおきっぱなしにしている煙草とライターが無造作に置かれていた。洋子は以前までならあれほど嫌っていた煙草の煙だったが最近では気にもならず、むしろ好む匂いにさえなり始めていた。
煙草とライターをポケットに無造作に入れるとそのまま、2階に自分の部屋に駆け上がっていき、バタンとドアを勢いよく閉めると鍵をかけ、制服を脱ぎ、ジーンズにセーターに着替え始めた。そして着替え終わると先ほどの煙草を取り出し、煙草を一本取り出すと口に咥え父親がしている仕草を真似るように煙草に火をつけた。
「ゲホゲホ」「こんなのうめえのかよ」そう言いながら煙草を吸う洋子。むせながらもなんとか一本目の煙草を吸いえた。「さ 宿題をしなくちゃ」と机に向かい宿題を始める洋子。
「やっとできたー」と宿題を終えると机のわきに置いてあった煙草に再び火をつけ、先ほどと同じように煙を肺の奥深くまで吸い込む。一本目の時の様にむせることなく、煙草を吸うことができ、その日はその後数本煙草を吸った後、煙草を元の位置に戻し、何食わぬ顔でその後母親を出迎えたのだった。
その日を境に洋子は母親の不在を狙って煙草を吸うようになっていく、初めは興味本位で吸っていた洋子だが洋子の身体は次第に煙草を欲しがるようになっていく。
今日もいつものように学校の帰りに服を盗んだ洋子。真面目なかっこをしているので店員は常に洋子にはノーマークであった。洋子は今まで盗んだ物に手を伸ばしたことはなく、すべてタンスの奥や押し入れや自分の自分の着る服の下に隠してあった。家に帰ると珍しく父親が先に帰っていて、煙草を吸っていた。「洋子お帰り」と父親が洋子に声をかける。「ただいま」と足早に部屋に駆け上がっていく。
洋子の口の中は唾が次々とあふれで、身体はむずむずとしていた。「タバコが吸いたい」洋子は自ら体の欲望を頭で理解し始めていた。
荷物を部屋に置くと「チョットと出かけてくる」と足早に家を出ていくのだった。