餓えた女…、熟れた肉体-2
週末、社員を乗せたバスは観光地巡りを終え宿泊施設のある温泉街に着いた。ホテルに入り一休みしてから夕飯を兼ねての宴会が始まる。全員浴衣姿だ。風呂は済ませていた。今回は健太郎と紗英は離れた場所に座っていた。紗英の周りには元気な男性社員が集まり騒がしく酒を飲んでいた。健太郎の周りにはいつの間にか女子が集まっていた。
紗英は自分でも無理してるなと感じるぐらいにそね騒がしさの中で同調していた。しかし一時間も過ぎるとさすがに疲れてきた。
するとカラオケ大会が始まり場所を移動し始める社員が目立つ。若い男性社員と女性社員は自然と集まりカラオケで盛り上がり始めた。
「ふぅぅ…」
思わず溜息をついた紗英。すると健太郎からラインが来た。
『ちょっと表へ出ない?』
健太郎の姿を探すがどこにもいない。
『今どこにいるの??』
『ちょっと疲れたから部屋に戻ったんだ。今から来なよ。二人きりでゆっくり飲もうよ。』
その文字に心臓がドキドキした。健太郎と二人きりで一つの部屋に…。何かを予想してしまう。しかし健太郎とゆっくり話したいのは紗英も同じだ。
『うん。丹野さん、何号室??』
『803だよ。』
紗英は少し悩んだ。男と女が密室の中で起こり得る事を想像する。何もない可能性だってある。ただ酒を飲むだけ…、そう自分に信じ込ませて返事をする。
『今行きます。』
紗英は周りを気にしながら人目を忍んで宴会場を離れた。
(どうしよう…そんな関係になっちゃったら…)
いざ不倫というものに足を踏み入れてしまうかも知れないと思うと不安にもなる。妄想と現実は思った以上に違う事に気づく。確かに健太郎に抱かれる妄想は数え切れないぐらいにしてきたが、これから本当に自分の身にそれがふりかかろうとしている事に恐くも感じた。
紗英は健太郎の部屋の前に立つ。ノックする勇気が出ない。このドアの向こうに足を踏み入れた瞬間、もう後戻りは出来ないような気がした。紗英はドアの前で躊躇っていた。
(でも、丹野さんは私が嫌がるのを無理矢理引きづりこもうとする人じゃない…。私を大事にしてくれるはず…。)
そう信じてとうとうノックをした。
「さ、入って?」
「うん。」
紗英はゆっくりと足を踏み入れた。紗英は分かっていた。ドアをノックできたのは健太郎への信頼ではなく、不倫をしてもいいと思っている自分の気持ちが強いからだと。怖さはあったが、ずっと抱える欲求不満を解消する術を健太郎に求めている自分にうすうす気付いていたのであった。
健太郎がドアの鍵をカチッと閉めた音が紗英には後戻り出来ない微かな恐怖に感じたのであった。