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あるカップルのSM2
【SM 官能小説】

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-1

 じりじりと地面を焼く夏の日差しもさすがに和らいできた九月初めのある日。この日の夕方、あるカップルはくだらない口論を交しながら夕食を作っていた。
「やっぱり紅茶が一番だね」
 そう自信たっぷりに春斗は言った。その手は、右手に肉叩きを持って、左手で押さえている豚のロース一枚肉を叩いて肉の筋切りを兼ねて伸ばしていた。
「何言ってんのよ、コーヒーの苦みがいいんじゃない。それがわからないなんて春斗くんは、ホントお子様よね」
 春斗の意見に真っ向から対立する朱莉は、春斗から受け取った一枚肉を、塩コショウ、小麦粉、溶き卵、パン粉の順で衣装を纏わせてから、熱した油の海へ突き落していく。
「はい、これで最後の一枚。盛り付けはやるから休んでな。へっ、お茶は世界中で一番飲まれている飲料だぞ。お前の論理だと、世界中の殆どはお子様だな」
 朱莉に最後の肉を手渡すと、任務を終えた肉叩きをシンクに持って行って洗剤で洗う。その間に軽い挑発を交えて自分の主張を通そうとする。
「筋切りご苦労様。ううん、私も手伝う。……前言撤回、お子様じゃないわ。それでもコーヒーが一番っ」
 自身の発言の不利を悟って朱莉は、春斗と正面対決する愚を犯さずに、おとなしく論理を引っ込めて、今度はやや強引に迫った。一方で、両者とも双方への労いの言葉を欠かさない辺りに、本心からの対立ではないことがうかがえる。
「じゃあ、盛り付けをやってくれ、俺はソースを作るから。それはどういった点で? 俺は紅茶のいいところを三十は言えるぞ」
 朱莉に指示を出したあと、春斗は朱莉の強引な主張を真正面から受け止める。これは誇張ではなかった。春斗は筋金入りの紅茶党員で、マグカップからポットまで、全て自分専用のものを自分の目で吟味して、購入したほどだ。もちろん、彼の後ろにそびえる棚の下から二段目には、彼の嗅覚と味覚によって選び抜かれた、数社に及ぶ数種類の茶葉が缶に入れられて整然と主人の喉を潤すべく出番を待っている。
「コーヒーは、疲れた頭をリフレッシュしてくれるのよ。受験勉強の時にだいぶお世話になったの。紅茶じゃそうはいかない」
 棚から取り出した二枚の皿に、バターで炒めたジャガイモとニンジン、コールスローを盛りつけながら、朱莉は自分の経験を含めて語る。
「紅茶にも十分にリラックス効果はあるんだな、これが」
 一方の春斗は、冷蔵庫から取り出した、ウスターソースととんかつソース、そしてケチャップを目分量で鍋に注ぎ入れて火にかけながら温めている。
「……むぅ……」
 朱莉が反撃に窮して小さく呻いたのを春斗は聞き逃さない。
「ほら、紅茶の方がいいだろ? な、な、な? 大体、コーヒーみたいな泥水色の飲物なんざ飲む奴は、腹から血液までどす黒いに決まってる」
 ここぞとばかりに煽り立てる春斗に、朱莉はやや顔を赤らめて対応する。もちろん赤くなったのは照れているからではない。


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