花言葉T-2
《綻んだ莟には、幾つか可能性が残るも手折られる》
人目に付き難い場所で車を止めると、助手席の様子を窺う。
スカート裾をしっかりと押さえた小さな手が震え、濃紺の制服に包まれた身体全体に緊張が走っている事が良く解る。
(たっぷり握らせてやる)
薄く塗られたリップに彩られる口元に自然と視線がいってしまう。
スラックスの中では触れてもいないのに、いきり立った陰茎が今や遅しと待ちわびている。
『さあ』
少女に対する少なげな言葉は、能動的な行為を意地悪く促す。
数分の沈黙が続く間、狭い車内に繰り返し少女の溜息が漏れる。
『さあ、恵利ちゃん。 ……それとも?』
その言葉に華奢な身体が、ビクっとすると、おずおずと動きはじめる。
そして震える白く細い指先は、俺の下半身に伸びベルト緩めスラックスのジッパーへと掛る。
覚束ない手つきではある幾つかの手順の後、陰茎は解き放たれると隆々と天を向き貧欲な脹らみを現す。
指先は絡めるも視線を逸らす仕草に、堪らず陰茎がヒクつき先端から一筋の涎が零れ出る。
『恵利ちゃん、しっかり握って扱くんだ』
先程までとは一転して、高圧的な口調で奉仕を促す。
「…… 」
繊細な黒髪が左右に大きく揺れ、拒絶の意思を伝える。
『駄目だ!』
「わたし、こんなこと、もうっ、出来ません。それに約束がっ 違っ ……もう、許してくれるって、だから私…… 」
堰を切る言葉と共に、みるみる恵利子の顔が紅潮する。
それは発する言葉と共に、暗闇の記憶が呼び戻されているからに他ならない。
『解放するとは約束したが、忘れられないんだ。恵利ちゃんの肌の優しさ…… 心地良さが…… 』
「お願い、それ以上言わないで。お願いだから、もう許して下さい」
甲高くうわずった声が車内に響く。
(…… 許して下さい ! ? )
恵利子は発した言葉を反芻しながら、自分自身に問い掛けていた。
いったい自分は何に対し、許しを乞っているのだろうか?
被害者は自分なのだから、淫らな行為を強要される覚えはないのである。
それに呼び出されることに、応じなければいいだけのこと。
何度も思い浮かんだ考えが、暗闇の記憶と共に否定されてしまう。
(抵抗…… できない?)
仕掛けられた呪縛が、言葉にされずとも抗う術を奪う。
(…… でも、本当に、それだけなのだろうか?)
否定したい気持ちが、僅かに囁きかけてくる。
……恐怖、抗うことへの恐怖が、恵利子を縛っている事は確かであった。
しかし、それだけではない事に気が付いてはいた。
はじめて知る感覚、高揚感にも似た不思議な感覚に興味を持ち始めていた。
身体の奥底に刻まれた苦痛、絶望に似た恐怖とは別に、痺れるような高揚感を僅かに感じていたのだ。
その僅かな高揚感が呼び起されてしまう。
剥き出しの欲望…… 怒張する陰茎を目にした瞬間、指先にその内に篭もった熱を感じ取った時、呼び起されてしまうのだ。