〜 始業式・試験 〜-2
『評論』は『ジェンダー論』の1種だった。 著者は『上野千鶴子』、耳にしたことがある名前だ。 確か100年くらい昔に、性差論の大衆普及に努めたとかなんとか、テレビで特集をやっていた。 『評論』の内容を大まかにいうと、性別に役割をあてがうことで、支配と被支配の構図ができるという、ありふれた論旨だ。 大意把握を済ませて設問に移ったところで驚いた。 いくつかの設問には、問題文とあまり関係がないものも含まれていた。
@下線部の『考える』とは、具体的に身体のどの部分で考えるのか、漢字2文字で記せ。
A下線部の『対等にとらえることを拒否』する姿勢は正しいか、間違っているか、理由を含め50文字程度で記せ。
B下線部の『雄による肉体提供の要請』が現代において成立しない理由を、文章中から15文字以内で抜きだせ。
C第3段落の内容を、『錯覚』という単語を用いて50語以内に要約せよ。
D筆者の誤った認識はなぜ生じたか。 次の選択肢から選べ。
ア)自分自身及び牝存在には、特別な価値があると考えている。
イ)殿方との接点が少なく、思想によって自己の優位を確認しようとしている。
ウ)妊娠、出産に適さない老いた自分の身体を持て余している。
エ)社会的好意によって自分が生かされていることに、過大に感謝している。
オ)他国との恣意的な比較により、自分は今の待遇に相応しいと考えている。
問題文の表現や背景を考えさせる内容はさておき、内容自体の正誤にまで突っ込んだ設問は初めてだ。 合計10問ある設問のうち、自信をもって書けた解答は1つか2つしかなかった。
『小説』は離島に囚われた女性たちが訓練を受ける内容だった。 『千葉青鬼』という人が書いた『大噴火』というこの作品は、如いていえばSFに分類されるべき内容だろうか。 設問は文章にそって、主人公の心情を問うオーソドックスな内容だった。
『古典』の題材は『源氏物語』。 全ての巻を原文と超訳で何度も見返した、最も馴染みある作品だ。 古語がもつ調子に加えて全文が仮名書き下しなせいで、文全体に風情がある。 無体な設問を交えながら、私は淡々と読み進めた。
@下線部の和歌の解説について、空欄に当てはまる語句を考えて記せ。
『光源氏のことを考えただけで身体が( )、つい頬を赤らめてしまうという不敬をなすことについて、( )する気持ちを須磨浦の波に例えている』
A平安時代の牝が贈り物を受ける態度について、50文字以内で論評せよ。
B下線部の助動詞の活用形を記せ。
C下線部を参考に、次の文章を古典的仮名遣いで書き下せ。
『私は大変淫乱なので、いつでもオマンコを濡らしてしまいます』
D当時の敬語対象(牝でも身分が高ければ敬語の対象になる)と現代の敬語対象(殿方のみ)は異なる。 正しい敬語になるよう、下線部ア〜オを訂正せよ。
『漢文』は返り点も句読点もない、完全な原文式だった。 出展が『史記』とあるため何となく場面はわかるものの、細かいところまで想像が追いつかない。 幼年学校で習った漢文は常に『書き下せる』ように工夫されていた。 その下準備が取っ払われては手も足もでない。
出来るだけイメージを膨らませて設問に取り組むうちに、50分の試験時間が終わりを告げる。 机に細い線上の穴が空いていて、そこにプリントを差し込むと、あっという間に吸い込まれた。 学園の机は、今更ではあるが、想像の上をゆく機能が溢れている。
静かに休み時間を過ごし、2つめの試験がやってきた。 数学だ。
顔中の穴を拡げ、股間に棒をいくつも咥え、チャイムと同時に身体をまさぐる。 国語と同様に10分足らずで二回絶頂することができた。
問題はすべてが『以下の設問に【ひらがな】で答えよ。 ただし計算過程も記すこと』という形式だった。 問題数は全部で50問。 決して数学は得意でないものの、どうにか半分は解くことができた。 問題は、例えばこんな具合だ。
@AさんとBさん、Cさんは商品をもっている。 Bさんの所持数はAさんの2倍より1000個多く、Cさんの2倍より1000個少ない。 AさんとCさんの所持数を合わせると、Bさんの所持数に等しくなる。 Aさん、Bさん、Cさんがもっている商品は合計いくつか。
連立式を作り、解答はAさんが2000個、Bさんが5000個、Cさんが3000個だ。 全て足すと解答は10000個になる。 ひらがなで解答するので、答えは『いちまんこ』。
私が解いた問題の答えはすべて『いちまんこ』になるようつくられていた。 きっと、残りの問題も『いちまんこ』なんだろう。 試験時間が残り1分になったところで、私は空白な解答欄に『いちまんこ』と書き殴った。 計算式はないため満点は貰えないだろうけれど、もしかしたら1点くらい貰えるかもしれない。
キーン、コーン、カーン、コーン。
最後の解答欄に『いちまんこ』と書き入れたところでチャイムがなった。 こんな風にして、私たちの最初の試験日は幕を下ろした。