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【スポーツ 官能小説】

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〜 日曜日・結末 〜-2

 私のような『茶番』ではない。 正真正銘、先輩は命を賭けさせられていた。 しかも見返りは全くない。 ただ私に『言葉をかけた』というだけの理由で、あんな羽目に陥っている。

 そのことに気づいた時だった。 遠くに飛んでいった感情が全速で私の許に帰ってくる。 ぼんやり眺めている場合じゃない。 先輩がこうなっている原因は私にある。 先輩は敢えて独り言でしゃべってみたり、耳元で囁いてみたわけで、露見すれば『自分が寮監に指導される』ことを覚悟して、私に言葉をかけてくれていたことに、ようやく想いがいたった。 私は、私のことしか考えていなかったから気づかなかった。

 先輩は、自分自身を生死の危険に晒してまで、私のために動いてくれていた……!

 瞳孔が開く。 感情が迸る。 
 あくまで想像にすぎないけれど、もしも私が『スイッチ』を押せていなかったら、その時こそとんでもないことになるんだろう。 それを防ぐため私の背中を押してくれた。 

 寮監が促し、先輩が頷く。 額には脂汗が、無数の脂滴をつくっている。 銃にかけた人差し指がビクリと震えた。

『いやあああっ! やだやだ、やあっ、せんぱあああい!!』

 私は思いきり叫んでいた。 『ハイ』『ありがとうございます』以外禁じられた身なんて関係ない。 先輩は、やっぱり優しい、優しすぎる人だった。 それが今やっとわかったのに、もういなくなるなんて耐えられない。 自分がハングする運命だったら理解できる。 だけれどもこんな形で別れて、残りの生涯を先輩の影を追って生きるなんて、運命だとしても酷すぎる。

 一瞬。 銃口を咥えた先輩と視線がぶつかる。 先輩は確かに笑っていた。

 カチリ。 

 無機質な金属音が高らかに響く。 ドサッ、先輩が床に膝をつく。 血の一滴すら零れることなく、辺りに静寂が訪れる。

 ――先輩が引いた弾倉は、唯一の空のものだった。 寮監は肩を竦めて先輩から拳銃を受け取ると、おもむろに床に敷いたマットに向けて引き金を引いた。 

 ピシュッ、ピシュッ、ピシュッ、ピシュッ、ピシュッ。

 マットに開いた5つの穴が、先輩のルーレットに茶番の欠片もないことを、何よりも雄弁に語っていて、先輩の額には大きな汗の粒がビッシリだったけれど、先輩は笑顔を崩していない。

『あ……あ……うああ……ふぇええええ……!』

 先輩が無事だとわかった瞬間、いろんなものが込みあげた。 もう抑えるなんて出来やしない。 
 
『ふぇぇぇ……うっくっ、ふえっ、ふぇぇぇん……』
 
 私は子供のように泣きじゃくった。 こんな風に感情に任せて泣いたのは生まれて初めてだと思う。

 先輩が私の肩を抱いて、台からソッと下ろしてくれた。 そして泣きじゃくる私の隣に立つと『寮監室で大きな声を挙げた罪』と『規定の単語以外を発した罪』の罰を寮監に乞うた。 どちらも私の失態なのだが、寮監は先輩の言葉に鷹揚に頷く。

『本当ならもっと厳しく指導するところなんだけど、今日は立て込みそうなのよねえ。 このあとも、きっとどんどん私の所にくるでしょうし、簡単に済ませましょう』

 と一言置いて、教官は先輩の頬を張った。

 パァン、パァン、パァン、パァン。

 掌、甲、掌、甲。 勢いよく先輩の顔が左右に振れる。 すぐさま先輩は正面に向き直るが、今度は反対側に張り飛ばされる。 足をグッと踏ん張り、頬どころか鼻の頭まで真っ赤にしながら、

 パァン、パァン、パァン、パァン……。

 都合20発の往復ビンタを、完全な無言で耐え抜いた。

 結局規則を破った張本人の私はお咎めなし。 私はしゃくりながら先輩に倣い、2人して深々と頭を下げてから寮監室を後にした。

 寮監室をでたところで、先輩は大きく息をついた。 

『これで本当の本当にお終い。 終わりよければなんとやら、ってね。 色々お疲れさま。 大変だったけど、まあまあ頑張った方だと思うよ、私たち』

『え……あう……?』

 泣き腫らして顔を真っ赤にしている私と、所々うっ血させて頬を赤らめている先輩。

『明日から私も学校だし、今日くらい気楽にしたいんだ。 もう四つん這いじゃなくていい。 言葉の規制も終わりだよ。 急に切り替えるのも難しいかもだけど、今からは普通の先輩後輩。 お互いずっと気を張っていた一週間でしょう。 せっかくだからお喋りも悪くないんじゃないの?』

 酷い痛みを堪えているとは思えない、涼しげな様子で先輩が喋る。 

「とりあえず、ちょっと遅いけどお昼にしよう。 おいで」

 何事もなかったように手招きをする先輩に、

「はい!」

 答える私の顔が窓にうつる。 窓の中には目を真っ赤にさせながら、それでいて満面の笑みの私がいた。 ドアを潜る前と後とでこんなに気分が違うのは、後にも先にも今回が一番に間違いないと思う。


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