〜 土曜日・備品 〜-1
〜 22番の土曜日 ・ 備品 〜
教室に戻ってから放課になるまで、ものの10分もかからなかった。 既に太陽は地平線にかかっていて、結局土曜日といっても、普段の7限とさほどかわらない時間まで『部活紹介』を見て過ごしたわけだ。
てっきりこれから部活を選ぶ、と思っていたから拍子抜けの感がある。 幼年学校では『仮入部』を経て正式に部活を決めた。 学園ではどうなんだろう。 来週から仮入部が始まったりするんだろうか。 もしそうなら、まだ全く会話していないクラスメイトとも話をして、一緒に部活に取り組みたい。 内容がメチャクチャでも、一緒に耐えてくれる友達がいれば話は違う。 単に辱められるだけではない、大切な瞬間だって作れるかもしれない――。
――違う。 絶対にそうはならない。
ギュっと手の甲を抓(つね)り、楽観的になりかかった自分を戒める。 学園の定員とクラブの人数から考えて、部員は均等に配置されている。 私たちが自由に部活を選ぶとすれば、絶対にあんな風には分かれない。 どの部活も辛いけれど、まだ文化部の方が身体を休められそうな分だけ無難だ。 誰がアーチェリー部に入るものか。
だったら結論はでている。 おそらく私たちに部活を選ぶ権利はない。 2号教官が選ぶのか、それとも身体測定やスポーツテストの結果から選ぶのかは知らないが、少なくとも私たちが好きなクラブに入れるとは思えない。 部活紹介自体、私たちのためというよりは、部員を辱めるためのイベントという可能性も捨てきれない。
「……」
割り振られたトイレ掃除をこなし、チェックをもらい、登校服に着換えて帰路を急ぎながら。 それでも私は一抹の願いが捨てられなかった。 『ジャグリング部』なら何かが見つけられそうな気がする。 恥ずかしい演技で自分を晒すのは、どこへいってもおんなじだ。 『ジャグリング部』では、少なくとも『技』と呼べそうな域に挑むことができる。
「……」
ああもう、だめだ、ここまでだ。 期待が膨らめば辛さも増す。 それに、私にはぼんやりとアテのない未来について、根拠なく夢想するような余裕はない。 学園から解放されても、私たちが気を緩められるわけでは決してない。 ここから先は寮の時間が待っている。
朝、登校前に寮監の9号教官からいわれた言葉。
『18時に寮の中庭に集合してくださいね〜。 寮の備品について、説明がありますから〜』
甘ったるい、それでいて酷薄さが隠しきれないトーンで、ニコニコしながら宣言した。 備品の説明……既に日常生活は滞りなく進んでいるので、どんなものか思いつかない。 消火器とか、非常口とか、そういうことだろうか。 そもそも消火器なんて備えつけてあるんだろうか。 学園では『火事になったら焼け死ねばいい』と平気でいわれそうだから困る。
掃除に時間がかかった分、急いでも寮到着は18時ギリギリ。 部屋で着替えるひまはなさそうだ。
……。
私たち掃除組が到着して数分後、副寮長のB29番先輩が中庭に現れた。 おもむろにはじまった説明は、想像していた『備品』の説明では全然なかった。 なんということはない。 9号教官がいったところの『備品』とは、つまり、私達自身のことだった。
最初に『カーペット』を教わった。 寮監にとって床が物足らない場合や、直に寝そべりたい場合、寮監の気分を察して私たち新入生が『敷物役』を勤める。 それも、単にまっすぐ寝そべって肉布団になるんじゃ足りない。 仰向けに寝そべり、腰を浮かせ、足首を掴んで首の後ろに組む。 第5姿勢から一歩踏み込み、柔軟性を追求したまんぐり返しを組めば『カーペット』のパーツができる。 この姿勢を組みつつ、互いに密着することで床を肌色に埋めれば、寮の『カーペット』が完成だ。 敷き詰める場所によっては5、6人で足りることもあるが、中部屋だと20人は必要になるため、寮でもっとも頻繁に動員がかかる備品の1つだ。
次に説明された備品は『椅子』だった。 四つん這いになる椅子、空気椅子、お尻をあげて馬をつくる尻高椅子……様々な形式のうち、寮では『腹椅子』が基本になるとのこと。 仰向けになったてブリッジを作り、臍が最も高くなるように背中を反らせる。 そして手を離し、頭と爪先だけで身体を支えるのだ。 膣は椅子の『小物入れ』や『ペン立て』にするため、尻から回した両手でビッチリ拡げ続ける。 例え入れるものがなかったとしても拡げることは大切で、使途を拡げる意志を膣であらわすことが備品たる新入生の務め、と言われた。
その他、『脚立』や『足のせ』、『脇息』や『テーブル』、私たちはありとあらゆる備品の代用を求められる。 しかも寮監の意図は、往々にして察しなければいけないという。 何もない場所でいきなり『椅子になれ』『カーペットになれ』という空気を読み、実行しろだなんて……常軌を逸している。 でも、副寮長は冗談をいう顔じゃない。 学園で過ごした1週間からしても、哀しいけど、これくらいはあり得る話だ。 理解したかどうか尋ねる副寮長に、私たちは俯いて頷くしかできなかった。