『名探偵N 〜自白解決〜-1
【仕事は最小の能力で最大の成果を上げることが望ましい。
探偵家業も同じことさ――――――――名もなき名探偵】
薄暗い小部屋。一人の男がスチール机を挟み、名探偵と対峙していた。
そこは警察の取調室。お約束のカツ丼はいつのまにか平らげられ、名探偵の脇に容器だけ
が残っている。
小一時間の沈黙を破ったのは、名探偵の方だった。
「……そろそろ、止めにしないか」
「何を、だ?」
「あくまでもしらを切るつもりなのか?」
「何のことだか、さっぱりわからんね」
机に肘を乗せ、両の手を組んだまま淡々と答える男。
対する名探偵は組んでいた腕を解き、パイプの中の灰を落とす。
「やれやれ……君はどうしても私に絵解きをやらせたいようだね。
今更どうしてそこまで足掻く必要があるんだい? 警察には既に全てが知れているとい
うのに」
「なっ――!」
男の顔色が変わる。無論、それを見逃す名探偵ではない。
「私の推理は既に警部に伝えてある。だがね、私はむやみやたらにそれを暴きたくはない
のだよ。
推理小説じゃあるまいし、わざわざ推理ショーをやらなきゃならん道理はないだろう?
」
「お、俺は……俺は……っ!」
「――自首したまえ。今ならまだ、情状酌量の余地もあるだろう」
それだけ言うと、名探偵は静かにその場を後にした。
後日、事務所に警部が息せき切って飛び込んできた。
「名探偵、犯人が自白しました。驚きましたね、あれだけ強情だった奴が口を割るなんて
」
「先生、いったい何をやったんです?」
助手の問に、名探偵は自信たっぷりに答えた。
「関係者全員に同じ事を言っただけさ」